取次の危機にどう立ち向かうか

山田 肇

日経電子版が記事『「トリツギ」の危機 書店に本が来なくなる日』を配信した。出版社と書店を結ぶ出版取次会社が配送費の高騰で危機に瀕し、このままでは書店に本が届かなくなる、というのが記事の要旨である。

出版取次会社は出版社から新刊を受け取り全国の書店に配送する。出版社は書籍を取次に渡せば売り上げが立つ。返本されたら清算する必要があるが、その前に新刊を出せば相殺される。零細書店が仕入れる新刊は取次が代わりに見繕い、売れ残りは無条件で取次に返本できる。戦前から出版界は取次によって維持されてきた。しかし、この仕組みには問題がある。

どの新刊がヒットするかわからないという点で、出版は本来ハイリスクなビジネスである。ところが取次から(一時的とはいえ)売り上げが入るから、出版社はともかく新刊を出そうとしてきた。紙の出版物推定販売金額は2017年に約1兆3700億円で、ピークの1996年から半減した。しかし、新刊点数は2016年に78,113点、2010年に77,773点と大きな変化がない。売り上げが減っても点数を維持するには粗製乱造せざるを得ないが、その結果、返本率は4割を超えた。

零細書店の品揃えは取次が選んだもので、どの零細書店も同じだから、零細書店を囲む商圏人口が減少すれば売り上げは必然的に下がる。2018年5月現在の全国書店数は1万2,026店で、10年前に比べ3割減少したそうだ。

坂道を転がり落ちるこの状況からどうしたら抜けられるのだろう。それには、出版取次会社に依存してきたビジネスを止めるしかない。

出版社は少数精鋭の良書の出版に注力してハイリターンにかける。同時に、紙と並行して電子出版を推進する。本の売り上げは出版社70%、取次8%、書店22%に分けられるそうだが、電子出版にすれば売り上げを取次と書店に分ける必要はない。出版社の取り分の中には印刷製本費を含まれているが電子種版なら不要だ。電子出版によって、出版社の利益率は上がるし、単価を下げる手も取れる。

書店は専門化する。表参道の児童書専門店クレヨンハウスは客であふれている。鳥取県米子市の今井書店は山陰の本を集め、頻繁にイベントを開催し、市民の読書推進を目的に「本の学校」も運営している。自らの意思で品揃えしようという意欲がないジジババ書店はつぶれても、品揃えが特別なこのような書店には客が来る。書店に品揃え能力がつけば、直接発注・直接配送が可能になる。

取次の経営危機は気の毒だが、出版界が変わるきっかけになるかもしれない。