日経新聞がきのう(8月18日)一面トップで、中国が外国への政治介入を狙い、SNSを通じた情報工作や政治工作に乗り出した疑いを報道した。2年前のアメリカ大統領選でロシアが介入したことを考えれば、驚くことではないものの、国際政治の裏ネタ的な話題を経済紙である日経が書いただけに、それなりにインパクトはあった。
中国が海南島をサイバー攻撃の拠点にしていることは日経の記事でも触れられているが、海南島が拠点になっている疑惑は、アメリカの民間研究機関メディアス・リサーチが2010年の時点ですでに報告している。それによれば、島内の人民解放軍の基地に所属する「陸水信号部隊」と呼ばれる約1,100人の電子戦部隊が、アメリカや台湾の軍事施設などを標的に「海南テレコム」経由で攻撃活動を展開していたという。それから7年も経っているので部隊の体制や技術が拡充されている恐れもある。
ロシアがすでにSNSでの偽情報の拡散や、自国と敵対する勢力からの情報の盗み出し、親ロシア勢力への資金提供などの政治介入を行ってきたことが明らかになっているが、日経によれば、中国側はロシアの政治介入をモデルに開発を進めている疑いがあり、あやうく機密情報を盗まれそうになったカンボジアの野党政治家の娘に取材もしている。この政治家は親中政権の政敵にあたる。
中国側が公式には絶対に認めないであろうなかで、断片的な証拠や公開情報を総合的に分析してスクープを報じた日経だが、「カンボジアで試した攻撃の応用先として想定されるのが、今年11月に地方選を控える台湾だ」と指摘する。台湾への政治介入の話は今年の正月にも書いたように、ミニ政党に中国側から資金提供されている。今後はこれに加えて大陸からサイバー空間を通じた世論工作の恐れはある。
一方、なぜか日経の記事では、攻撃対象になりそうな近隣諸国のなかで日本の名前だけは外している。よりによって9月30日には台湾のお隣、沖縄県で知事選の投開票が控えているのに、だ。
ここのところ日中関係は、米中の貿易戦争の影響で日本との距離を縮めたい中国側の思惑もあって好転している。しかし、言うまでもなく沖縄は尖閣の当該地域だ。長期的な軍事戦略において2040年までに第2列島線まで外洋進出をし、太平洋におけるアメリカ海軍の独占的地位に終止符を打とうとしているわけだから、ポスト翁長県政が“親中”になるのかどうか、中国側にとって関心がないはずがない。
日経新聞が日本や沖縄のことを「書かなかった」背景には、中国本土における日本の報道機関の複雑な業界事情があるのかもしれない。その詳細は専門的な話なのでnoteの個人ブログのほうに譲るが、間違いなく言えるのは、沖縄知事選をはじめとする今後の日本の選挙で、中国から政治介入が仕掛けられる可能性もあることだ。
日本の防衛省や公安調査庁などは、中国側のサイバー攻撃の動きは、以前から把握はしているのだろう。だいたい、そうした指摘をすると、右翼的な扱いをされることもあるのが日本の平和ボケした困ったところなのだが、記事にしたのは軍事マニア向けの雑誌ではなく、全国紙が朝刊、それも一面トップで書いたのだ。「公知」の事実になった以上、有権者やメディアも警鐘がなり始めたのだと自覚する契機にしたいところだ。