NHKの幼稚な戦争番組:だから日本の夏が好きになれない(特別寄稿)

潮 匡人

NHK「ニュースウオッチ9」より:編集部

この夏のNHK総合テレビ看板報道番組に的を絞ろう。まずは平日の午後9時から午後10時までの生放送番組「ニュースウオッチ9」から。

最近では、8月3日放送回が特集した杉田水脈衆議院議員へのバッシングが目に余る。非難の的は「新潮45」8月号に掲載された杉田代議士の寄稿文。そのごく一部を切り取り一面的かつ独善的に報じながら、あえて「難病患者支援団体の女性事務局長」に、こう語らせた。

「杉田議員の文章を読んで、真っ先にひらめいたのは(相模原障害者殺傷事件の)植松(聖・被告人)と根っ子は一緒だ(以下略)」

その前後を含め「ヒトラーの優性思想」と同根と断じながら約10分間にわたり非難一色の「報道」を続け、与党の国会議員を重大凶悪犯罪者と同視し、同根と断じたうえで、最後に番組キャスターが、こう総括した。

桑子真帆キャスター

「浅はかとも言える言葉に、反発や嫌悪感を覚えた人は少なくないのではないでしょうか」

有馬嘉男キャスター

「人ひとりの価値を数字ではかるような考え方、受け入れることはできません」

二人の総括こそ「浅はか」に過ぎよう。私は杉田議員ではなく、この番組が振りかざす、浅はかな〝お茶の間の正義〟に、強い反発と嫌悪感を覚えた。その理由と論拠は「新潮45」10月号掲載予定の拙稿に譲る。

こうした番組の体質は8月9日放送回でも露見した。まず有馬キャスターがこう導入。

「今日一日繰り返し言及された核兵器禁止条約についても批准する国の数が足りず発効の具体的目処はまだたちません。核廃絶の機運をどう確かなものにしていくのか。ノーベル平和賞を受賞したICANの中心メンバーに話を聞きました」

登場したのは「国際運営委員 川崎哲さん」。「核保有国が慌ててきている」、だから各国に圧力かけていると力説した。普通なら、粗悪な陰謀論と一笑に付されるはずが、なぜか有馬はうなずきながら、こう質した。

「アメリカの核の傘に守られ、核兵器禁止条約に背を向けてきた日本。私たちに何ができるのか」
「日本人一人ひとり、どうこの問題に関わっていくべきか。どう一歩を踏み出したらいいのか」

NHKニュースウオッチ9より:編集部

川崎いわく「できることはいっぱいある。いっぱいあるんです。一番簡単なことは、スマホで意思表明することだと思うんでよ」――再び一笑に付されるはずが、今度も有馬は相槌をうち、うなずくだけ。調子に乗った川崎がこう続けた。

だって、あの〜、ICANがこれだけ広がったのは全部ソーシャルメディアですよ。テレビも新聞も、あまり世界中で取り上げてくれないんですよね。だから自分たちでSNSを使って発信していったんです。動画を拡散して、それに「いいね!」を集めて。だから核兵器廃絶のキャンペーン動画でいいのがあったら、「いいね!」すりゃ、いいんですよ。「いいね!」して、友達に広げればいい。それがまず最初にできることなんですね。

万一そんなことで「核なき世界平和」が実現できるなら、国際政治学も安全保障学も、自衛隊も外務省も不要となろう。本来なら、幼稚な空想論と、みたび一笑に付されるはずが、なぜか有馬はうなずき、相槌をうち、「一人ひとりが行動すれば、国を動かすことも不可能ではない」と川崎に調子を合わせた。

しかもNHKは右の発言をテロップで文字化したあげく、「いいね!」の部分だけを、青く(青い文字で)強調。さらに以上のやり取りを切り取り、わざわざ番組公式サイトで公開している。異例の特別扱いに驚く。

その後も、川崎が「市町村議会が核兵器禁止条約への賛成の意見を表明するとか、あるいは意見書を採択するとか、そういう動きも出てきていて。こういうのはもちろん一人ではできませんけど、地域で仲間をつくればできるわけなんで、政府の方々や政治家の方々も無視できなくなっていくのではないですかね」と強弁を続け、有馬が頷く姿が延々放送された。「条約は〝被爆者の遺産〟」とのテロップを掲げ、川崎に「条約は被爆者の遺産」、「今を生きる日本の私たちがそういうことを盛りたてていくという責任を負っている」と語らせた。

番組がテロップで「被爆者の遺産」を「〝〟」で括ったのは、あくまで川崎の意見であり、 NHK自身の意見表明ではないとのポーズであろう。だが、そんな逃げ口上は許されない。以上のとおり番組は川崎の独壇場と化した。長崎への原爆投下を含め9時22分から38分まで約16分間の時間を費やし延々放送した。川崎はNHKを代弁した。誰の目にも、そう映る。そう受け取って問題あるまい。げんにキャスターがこう総括した。

桑子「核兵器禁止条約。発効はまだしてはいませんけれども、すでにその核兵器の廃絶という目標に向けて一つ大きな流れは生まれつつあるんですね」

有馬「世界にある核弾頭。推計で1万4千個あまりです。その核を廃絶するというのは途方もないことで無力感のようなものすら感じます。しかし今回、話を聞いて私たち一人ひとりにも、できることがあると、改めて感じました」

もはや開いた口が塞がらない。まさかとは思うが、本心から、そう感じたのか。もしそうなら、知性を疑う。この日は長崎への原爆投下に加え、ソ連対日参戦の日でもあるが、NHKは核兵器を保有するロシア(旧ソ連)や中国、北朝鮮ではなく、以上のとおり「核兵器禁止条約に背を向けてきた日本」を批判した。いったい、どういう神経なのか。

加えて「終戦記念日」を挟み、6番組もの「NHKスペシャル」を放送。ドラマ仕立ての演出を加えた番組も複数あった。全番組とも暗いBGMを流し、旧日本軍や日本国(政府)、あるいは軍事や戦争そのものを断罪するパシフィズム(反軍反戦、絶対平和主義)を奏でた。報道に値する「スペシャル」な史実の発掘はなきに等しい。

定時のニュースでも、『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』を朗読する平和集会を好意的に報道した一方、同書に批判的な保守系の集会は報じなかった。

結局この夏、NHKは核抑止力を含む軍事力の意義を説くことなく、幼稚な正義や反戦平和を掲げ、与党議員や安倍政権、戦争そのものを非難して終わった。浅はかな〝お茶の間の正義〟を振りかざしただけではないか。これがあるから、私は日本の夏が好きになれない。