なぜ米国では医療分野でのAI・IoT活用が急進展しているのか

山田 肇

情報通信政策フォーラム(ICPF)で笹原英司さんに『医療分野でのAI・IoTの活用』について講演いただいた。正式な議事録は後日ICPFサイトで公開するが、印象深い講演だったので筆者なりのまとめを書き残す。

糖尿病は多様な合併症を併発するが、開発した糖尿病薬はどの合併症にも効き、どの合併症に悪影響を及ぼすのだろうか。IoT血糖計で連続計測した投薬後の血糖値の変化や症状の変化といった大量の情報を入力して薬効を多変量解析するのを、医療関係者は難問と感じるかもしれないが、同じような解析がビジネスのIT企業にとっては格好の応用問題である。多変量解析で統計的に有意な結論を導き出すには、多くの患者を抱える医療機関から、あるいは患者から直接大量の医療データが提供される必要がある。それがあれば、あとはIT企業がAIも活用して解析すればよい。

医療AIについてプレゼンするグーグルのサンダー・ピチャイCEO(Google Developers動画より:編集部)

GAFAに代表される巨大なITプラットフォーマは膨大な医療データを学習用データとして囲い込み、それをもとに解析アルゴリズムを開発し、薬効をエビデンスとして明らかにしている。米国には21世紀医療法があり、この法律に基づいて規制官庁FDAは医療ソフトウェアを積極的に認可する。医療データという機微情報を扱うので医療ソフトウェアには高度なセキュリティが求められるが、FDAはこれに関するガイドラインも公表している。また、医療ソフトウェアにもバグが潜む恐れがあるが、FDAはIT企業に継続的に品質を改善していくように求めている。

こうして、医療分野でのAI・IoT活用は、米国ではITの変革スピードで進展するようになった。これがセミナーの要約である。含蓄の深い講演をしていただいた笹原氏に改めて感謝します。また、この記事の誤りは筆者の責任です。

わが国での活用は、医薬品や医療機器の認可や診療報酬制度の改訂周期に律速されるために進展が遅い。わが国IT企業が積極的にこの分野に乗り出し主導権を発揮するとともに、GAFAの支配を必ずしも好ましく思っていない諸国と連携してAI・IoT活用を加速する必要があると思った。