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危険水域に入った韓国の「少子化」

長谷川 良

イタリアの少子化を取材するために2001年、ローマなど現地を取材したことがあった。その時、「わが村では犬の数が住民より多い」という話を聞いてビックリしたことがある。

東西両ドイツの再統一の立役者ヘルムート・コール(独連邦首相、在位1982~98年)は「冷戦後の欧州最大の問題は少子化対策だ」と語ったことがある。メルケル首相が政権担当する前だ。少子化問題はイタリアを含めて欧州で現在、社会・政治・経済構造の変革を求める大きな問題となってきた。コールの少子化発言は正鵠を射ていたわけだ。

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初老の男と子犬(2013年9月25日、イタリア北部ベルガモで撮影)

そのイタリアの2017年の合計特殊出生率は1.34人だ。日本の1.44よりも下回っている。ところで、韓国聯合ニュースが22日報じたところによると、韓国の合計特殊出生率はなんと1.17で、経済協力開発機構(OECD)加盟国36カ国で最下位だったというのだ(合計特殊出生率とは、1人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均)。

その合計特殊出生率が1.3未満の場合、「超少子化国」と呼ぶというが、韓国はOECDの中で唯一、「超少子化国」入りした。人口を維持しよう とすれば、出生率は最低でも2.1が必要。

参考までに、OECDの中でも韓国に次いで合計特殊出生率が低いのはイタリアとスペインで1.34だ。いずれにしても、韓国の合計特殊出生率の低さが突出している。イタリアで市民・住民の数より犬・猫が多い地域があるとすれば、韓国でもそのような犬・猫王国の地域が存在していても不思議ではない。

当方はこのコラム欄で「韓国がOECD加盟国の中で自殺率が最も高い」というニュースを紹介したことがあった。少しデーターが古いが、2013年を基準としたOECD加盟国の自殺による死亡率は人口10万人当たり12.0人だったが、韓国は29.1人で、OECD加盟国のトップ、その次にハンガリー(19.4人)で、3番目が日本(18.7人)だった。1985年からの自殺率推移をみると、OECD加盟国のほとんどは減少しているが、韓国は2000年から増えている。日本も自殺率が高いが、2010年以降は減少傾向にある(「自殺大国・韓国が提示した課題」2015年9月1日参考)、「ソウル大A君の『遺書』への一考」2016年1月4日参考)。

海外に住んでいると、韓国ニュースといえば、北朝鮮の核問題関連記事が圧倒的に多く、韓国の自殺件数の増加、超少子化現象などが報じられることはめったにないが、特に、少子化問題は韓国社会の将来を左右するテーマだ。

韓国中央日報(日本語版24日)は横浜市立大学国際総合科学部の鞠重鎬教授の著書『流れの韓国 蓄積の日本』を紹介したが、同教授はその著書の中で「韓国の高齢化は日本をはるかに上回る速度で進行中」と指摘している。

国民経済が低成長に入っている韓国の経済界では、日本の「失われた20年」を繰り返すのではないかといった懸念の声が聞かれる。日韓両国の国民経済には共通点と相違点はあるが、両国の社会の共通点は高齢化、少子化現象だろう。

こどもの日の行事で子どもたちと交流する文大統領(韓国大統領府Facebookより:編集部)

大統領に就任以来、破竹の勢いで高支持率を維持し、平昌冬季五輪大会を開催し、南北首脳会談を実現することで国民の支持を得た文在寅大統領だったが、ここにきて支持率に陰りが見えだしてきた。

聯合ニュースは24日、「韓国ギャラップが同日に発表した世論調査結果によると、文在寅大統領の支持率は前週に比べ4ポイント下落した56%だった。同社の調査では昨年5月の就任後最低」と報じた。支持率低下の理由として「経済状況全般に対する政府の責任論、所得主導の成長論を巡る攻防が一層激化したため」という。

世界の耳目を集めた北朝鮮の非核化の見通しが不透明さを増す一方、対北経済制裁の解除への圧力は高まってきた。対北融和政策を実施してきた文政権は大きな分岐点に遭遇している。同時に、同政権が進める経済政策への国民の批判の声が高まってきているわけだ。

低迷する国民経済を一挙に回復させる処方箋が見出せない場合、文政権は外交で実績を上げようとするだろう。それだけに、朝鮮半島では夏明け以降、終戦宣言、南北再統一への動きがこれまで以上に加速される可能性が考えられる。

「韓国の合計特殊出生率がOECD最下位」というニュースは、韓国を取り巻く状況が海外から見るより深刻であることを端的に物語っている。外交とは違い、少子化現象をストップさせる即効薬はない。政治・社会全般の抜本的な改革が不可欠となるうえ、時間がかかる。パリパリ(早く早く)文化の韓国にとって、少子化対策はそれゆえに容易ではないわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。