今回配信したHimalayaの「コミュニケーション講座」は、経済学に関心のないリスナーの方々には、少々難解だったかもしれない。
そこで、本記事で若干の補足解説をしたい。
質問に出てきた「コースの定理」は、周囲に何もないところに煙を出す工場とクリーニング店の2つがあるとするケースだ。
「クリーニング店」が煙の害を受けるのなら、工場が弁償すべきだ」と考える人が多いのではないだろうか?
しかし、クリーニング店が後から入ってきた場合や、クリーニング店の方が大資本のような場合で、しかも工場の煙が微々たるものだとしたらどうだろう?
クリーニング店がフィルターを設置する方が、遥かに安価な解決かもしれない。
いずれにしても工場とクリニーングの経営者の同一であれば、両方にとって最も利益が上がる方法を採るだろう。
工場を昼間操業して、クリーニング店の作業を夜間にするなど。
コースは「取引費用がゼロであれば」という仮定を頻繁に使っている。
「取引」を「交渉」と同視すれば、交渉も限度を超えればマイナスの方が大きくなる。
音声配信で述べたように、売り手が200万円以下では売りたくない車を、150万円以上出したくない買い手に売ろうと交渉するのは無意味だ。
立ち退き料を1000万円もふっかける賃借人相手に、アパートの立ち退き交渉をしても無意味だ。
つまり、交渉はメリットがある範囲でのみ行う意義がある。
まとまれば、(時間コストを差し引いても)双方にとってプラスになる場合がベストだ。
最低でも、一方のプラスが他方のマイナスをカバーして余りあれば、社会経済的にはトータルでプラスになる。
双方がマイナスになったり、一方のマイナスが甚だしいような場合(つまりトータルでもマイナスになる場合)は、社会経済的には「交渉」の意義はない。
どこで線を引くかは難しい問題だが、多くのケースでは事前に「交渉の打ち切り時」を設定するのが一般的だろう。
「ここまで交渉してきたのだから、今やめると今までの努力が無駄になる」と考えてはいけない。
プラスをもたらさない過去のコストは「サンクコスト」であり、回収不可能なものだ。
回収できない「サンクコスト」を含めて、交渉の「打ち切り時」を予め決めておくのが一般的な方策だ。
交渉は、まとまるときもあれば、流れるときもある。
金銭的な理由だけでなく、感情的な理由で左右されることも少なくない。
まとまらないものを「絶対にまとめよう」と無理して足掻くのは、「サンクコスト」を増大させるだけだ。
(株式投資と同じで)損切りを忘れないようにしよう。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。