厚労省(自殺対策白書)によれば、2016年に自殺した人は、21,897人となり、22年ぶりに22,000人を下回ったことが明らかになった。年代別では15~39歳の死因第1位は「自殺」である(40歳以上、死因1位は悪性新生物)。15~39歳の死因第1位「自殺」は、先進国では日本のみで見られる現象であることから対策が急がれる。
従来から、若者の自殺率の高さは指摘されていた。調査結果からは、若者の自殺以外に中高年(40~50歳)の自殺も顕著であることが明らかになっている。厚生労働省「人口動態調査」の集計によれば、1年でもっとも自殺者が多いのは、夏休みが終わる9月1日前後になる。つまり、いまのこの時期がもっとも危ない時期であるともいえる。
今回紹介するのは、『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)。TBSテレビ「NEWS23」、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、など主要新聞でも取り上げられた過労死漫画である。アゴラでは、筆者が出版前から注目し何回か紹介してきた。
会社や仕事にしがみついてはいけない
まず、本書の特徴は読みやすさにある。漫画と専門性の高い解説によって構成されている。漫画で説明することに違和感を覚える人がいるが、漫画だからこそ、共感をよび多くの人に読まれたのだと考えている。最近はストレスによる精神的な疲れを感じている人が多い。そのような人に、文字で埋め尽くされた本が受け入れられるとは思えない。
著者の汐街コナさんは、自殺寸前まで追い詰められた経験がある。彼女のイラストだからこそ、強いメッセージを表現できた。本書内で「学習性無力感」について解説している箇所がある。それによれば、「長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなる」としている。
「死ぬくらいなら辞めればができないのは、判断力が奪われてしまうからです。自分のことを思い返すといろいろ理由はありますが、他人を中心に考えてしまうことがありました。『会社や顧客に迷惑がかけられない』『親に心配はかけられない』『デキないヤツに思われたくない』『世間体が・・・』などがあげられます。」(汐街コナさん)
「人を優先して自分を後回しにしているうちに、手遅れになってしまう危険性があるように思います。まずは、自分の命と人生を最優先に考えることが必要です。」(同)
他の例を紹介しよう。サーカスのゾウはおとなしい。本来、ゾウは力が強く、凶暴性がある。しかし、サーカスのゾウは、小さいころから足に紐をくくられ杭につながれて育っていることから、「抵抗してもムダ」とインプットされている。人間も過度のストレスを受け続けると、逃げ出すという選択肢がみえなってしまう危険性がある。
また、哲学者でありノーベル文学賞受賞者のバートランド・ラッセルは、『幸福論』のなかで次のように説いている。「人間は疲れれば疲れるほど、仕事をやめることができなくなる。ノイローゼが近づいた兆候の一つは、自分の仕事はおそろしく重要であって、休暇をとったりすれば、ありとあらゆる惨事を招くことになる、と思い込むことである」。
このようなストレスには注意を
「死ぬ気で頑張れ、絶対死なないから!」。私が20代の頃に勤務していたA社では、こんな言葉が飛び交っていた。毎年100名近くが入社し約1年で同じ人数が辞めていった。社員数は減るが売上げ目標は変わらずノルマのみが増える。
会社とは不思議なもので、環境に慣れてしまうと、なにが普通でなにが異常か、わからなくなる。「頑張れ」も希望がある人には響くが、希望が無い人には響かない。汐街コナさんは自らの経験を踏まえて、危険な体の変調について次のように答えている。
「突然、涙が出てきてとまらない。悲しいことなんてないのに、なぜか涙があふれてくる。自分で思いあたることがないのに、涙が止まらないというのは感覚が麻痺している可能性があると思います。そのような時、あなたの心のなかはストレスで限界を迎えている可能性があります。」(汐街コナさん)
「『もう、無理だから!』『いっぱいいっぱいで無理!』という場合。これ以上、ストレスには耐えられない。いまがとてもつらいから『涙』がとまらないのです。」(同)
原因がわからないのに、突然、立てなくなる。起きられなくなる。動けない。「どこも悪くないのだから頑張らなきゃダメ」「これくらいで休んじゃダメ」。このような時には、振り返りが必要だ。普段どおりのことができない時点で十分「おかしい」のである。
会社も上司も解決策を提示してはくれない。だから、あなた自身が自らを客観視しなければいけない。本書を夏休みが終わる前のおすすめ本として紹介したい。
尾藤克之
コラムニスト
新刊情報(11冊目)
『即効!成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)