原子力問題から逃げる安倍政権が電力危機を招く

池田 信夫

北海道で震度7の地震が起こり、北海道全域の295万世帯が停電した。地震は日本では珍しくないが、こんな大停電は初めてだ。この原因は苫東厚真火力発電所(165万キロワット)が地震で停止したためと言われるが、地震が起きたときの消費電力300万キロワットのうち、55%を1カ所で発電していたことが大きな問題だ。

本来は深夜には原発が「ベースロード」として電力を供給するので、泊原発(207万キロワット)が稼働していれば、大停電は起こらなかったと思われるが、これは原子力規制委員会が安全審査をしており、いつ再稼動できるか分からない。安倍政権は原発の問題からずっと逃げているからだ。

5年以上も放置されてきた原子力問題

安倍首相が原子力問題について判断したのは、2013年10月のオリンピック招致演説が最後だ。このとき「汚染水」の処理について、首相は「国が前面に出る」と言い「状況は完全にコントロールされている」と宣言した。

このとき国費でALPS(多核種除去設備)や凍土壁が導入され、排水から放射性物質を除去する方針が決まったが、トリチウム(三重水素)が除去できないことは分かっていた。これは水素の放射性同位体で、原子核の構造が水素とよく似ているので、除去する実用的な技術がないのだ。

今も福島第一原発では、水をタンクに貯蔵するために毎日5000人が作業しており、1000基近いタンクに92万トンの「トリチウム水」が貯蔵されている。その処理をめぐって、8月30日と31日に地元で公聴会が開かれた。出席した反対派は貯蔵された水の海洋放出に反対し、「トリチウム以外の放射性物質がタンクに残っている」と主張した。

そんなことは当たり前だ。事故を起こした炉心を冷却しているのだから、その排水にはいろいろな放射性物質が含まれている。それは環境基準以下に薄めて流せばよかったのだが、東電が「ゼロリスク」にしようとしたことが問題をこじらせてしまった。

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