池上彰氏は著作物でも不可解な行為

中村 仁

(編集部より:12日朝に一度掲載しましたが、都合により一部を修正して再掲載します。)

参考文献、引用部分が不明

論客のブロガー、八幡和郎氏(元通産官僚)が人気絶頂のジャーナリスト、池上彰氏を厳しく批判しています。池上氏は多くのテレビでジャーナリズム番組を持ち、一方でおびただしい数の著書も出版しています。パクリに当たることもしているのではないかとの批判が聞かれます。NHK出身で経験豊富だとしても、なぜこんな超人的な活躍ができるのだろうかと、疑問を持っていた人は多いでしょう。

池上氏(Wikipedia)と八幡氏(FB)=編集部

池上氏の著書についていえば、参考にしたであろう文献、論文をほとんど明示していないのを、私はずっと不思議に思ってきました。どこまでが自力の取材、研究の成果で、どの部分が第三者から学んだのかの境界線が分からないことがあまりにも多いのです。

私は「池上彰の自慢の新書ー大世界史の難点」(15年11月9日)、「池上さん、本の書きすぎが心配」(15年3月18日)のタイトルで、著作権法の引用規定を守っているのかどうかという観点からブログを書きました。第三者の研究成果を取り入れているとすれば、それを明示しないのは、フェアでないという問題意識です。

池上氏の意見ということに

著作物の問題に言及する前に、八幡氏がフェイスブックに投稿したテレビ番組の問題を先にいたします。あるテーマで「池上さんの番組から取材(電話?)を受けた。さんざん時間を取らされた後、最後に池上の方針で、番組では八幡さんの意見ではなく、池上の意見として紹介します。了解していただけますか」と、いうのです。

これには驚き、八幡氏は「私が言ったことを番組で使ったり、池上さんに似たようなことを言わせないように」と、担当者に強く申し入れました。「一般的な知識ではなく、特定の人が唱えている説を紹介する時は、だれそれの意見ではとか、〇〇と言っている人がいる、というべきだ」。

「自分のオリジナルでないことを言う時は、あたかも自分の意見を開陳しているというイメージは避けるべきだ」と、八幡さんは怒っています。池上氏の著作物について、第三者の成果が出所の明示がないまま、紛れ込んでいるのではないかと、私が感じたことが、テレビ番組でも起きているのではないか。八幡さんに対するコメントには「自分も同じ経験をした」という声も寄せられています。

気鋭のイスラム学者、池内氏の批判

著作物の話に戻ります。私が「はやりそうか」と思ったのは、気鋭のイスラム研究者で、その分野の著書が多い池内恵・東大准教授がネットに投稿しているのを読んだ時です。池内氏は「あなたの本には、池上さんの本に載っているようなことが書かれている」と、指摘され、驚いたというのです。実態は逆で、池内氏の本が先で、池上氏の本が後であるはず、という疑問を持ったのでしょう。

池内恵氏(ツイッターより:編集部)

池内氏は中東に独自の研究、取材拠点も持ち、中東問題では最先端をいっているとされます。何が自分のオリジナルな成果であるか、当然、熟知しています。池上氏が池内氏を先行することはまずないとの意識でしょうか。池内氏は「池上彰本なんて、全てどこかのいろいろな本の内容をもってきている」と、酷評しました。

さらに舌鋒鋭く、池内氏は「他人の知識、情報の転用だ。なんでも知っているように見える。実際は人を使って調べさせている」と。必死になって独自の人脈、情報源を開拓し、オリジナリティのある著書を書いたのに、出典の明記もなく、第三者に使われているとすれば、怒るのも当然でしょう。

学問、研究の発展のために、他人の著作物を筆者に断わらず、自分の著書、論文に取り込むことはできます。ただし、無断引用をする場合、条件があり、「引用箇所を明示する」、「出所を明示する」、「引用部分が従で、本文が主という構成になっていなければならない」などです。主従というのは、自分の研究成果(主)を補強(従)するためなら、第三者の成果を無断で使っていいという意味です。

私の手元に池上本が10冊ありますが、これらを見ると、引用箇所の明示も、参考文献を巻末に一括して掲載することもほとんどない。その実例を挙げましょう。「大世界史ー現代を生き抜く最強の教科書」(文春新書、15年発行)は元外務省の佐藤優氏との共著(対談形式)です。

佐藤氏の部分には、引用や出所の明示があります。「先日、イスラエルのインテリジェンス(情報活動、分析)機関の元幹部と話す機会があった」という具合です。「20世紀の歴史(河合秀和訳、三省堂)を書いたホブズボームが非常に鋭い見方をしている」など。

池上氏も出所の明示は皆無とはいいません。知人を通じて確認したところ、同じ佐藤氏との対談本で東洋経済から出た書籍(「僕らが毎日やっている最強の読み方」)のほうは、巻末に出典を羅列していました。しかし、刊行済みの書籍によっては、出典が十分に示されていないものがあるのは確かです。

複雑な話も分かりやすく説明する人物としては、池上氏は有数でしょう。惜しいですね。テレビ番組については八幡氏、著作物については池内氏に、厳しく問題点を指摘されているのですから、番組の制作方法、著作権法の引用規定に関する考え方などを説明されるといいですね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年9月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。