キャッシュレス社会へ:QRコード決済の垣根はこうして取り払う

前々回の記事で、銀行を中心に各種のQRコード決済が乱立する状況になりそうなことを書いたが、もしそうなってしまった場合、商品やサービスの購入者が、例えばMUFGコインで支払いをしたいと思ったとき、MUFGコインの加盟店に行けば支払いをすることが出来るが、それ以外のお店では支払いができないことになる。同じことは、Jコインを持っている人がJコインの加盟店以外に行ったときや、LINE Payを使う人がLINE Payの加盟店でないお店に行ったときにも起きてしまう。

この問題をお店の側の努力で解決しようと思うと、加盟店がすべてのQRコード決済の加盟店になるしかない。しかし、各QRコード決済の中身にもよるが、加盟店の側ではQRコード決済サービスを提供する銀行ごとに口座を持つ必要があるし、場合によっては、そのための端末やアプリをそれぞれ用意しなくてはならなくなり、なかなか容易ではない。

しかし、こうしたQRコード決済の間の垣根を取り払う妙案がないわけではない。それは、ちょうど外貨と日本円を交換する際の両替商のように、様々なQRコード決済の代金を受け取って円と交換するサービスを提供する、いわば電子両替商が現われればよいのだ。

この電子両替商が普通の両替商と異なる点は、普通の両替商は銀行となんら契約等を結ばなくても独立してビジネスができるが、電子両替商は各コインの発行・管理銀行と契約を結んで、お店に置いた電子両替商の端末やタブレットを使って支払われたQRコード決済代金を各銀行に持ち込めば、その代金に相当する円を電子両替商の口座に振り込んでもらえるようにする必要がある。電子両替商はそうして受け取った円をお店の口座に振り込めば、一件落着となる。

問題はこうした契約を銀行が電子両替商に認めてくれるかどうかだが、これは今後の各銀行等の判断次第だ。しかし、身近なところにそれに似た例がある(もちろん相手は銀行ではなくクレジットカード会社等だが)。

おそらく読者も利用した経験があると思うが、ネットで注文した商品を宅配便で受け取る際に商品の代金を支払う「代引き」がそうだ。これは宅配便業者が商品を販売したお店の代わりに注文者から現金、クレジットカード、デビットカードなどで代金を受け取って、後でお店の口座に代金を振り込むサービスだ。これをQRコード決済にも広げて、宅配便の運転手さんが持ち歩いている携帯端末にQRコード決済のアプリを入れるだけでよい。そうすれば、お店にとってQRコード決済ができるようになる。

実は、宅配便の会社より早く、このサービスに目を付けた会社がある。それは官公庁のシステムの構築や格安携帯電話などでおなじみのIIJだ。報道によればIIJは金融機関、決済事業者などを中心に各界の主要企業の出資を募って子会社を設立し、様々なデジタル通貨の取引・決済を担う金融サービスを近々行うそうだ。

この会社が計画している事業範囲は広く、電子両替業をどこまで意識しているのか、現時点ではよくわからないが、もし電子両替商ビジネスが実現すれば画期的なビジネス・イノベーションになると思う。

このビジネスモデルは金融機関等と提携しさえすれば他の会社も参入できるので、いくつかの会社が競争するようになれば、加盟店手数料等も低くなり、一層QRコード決済が普及するのではなかろうか。そうなれば、日本のキャッシュレス化のスピードは早まるだろう。