「副業」も地方間競争へ:でも福岡やっぱり最強ばい!

新田 哲史

選挙をのぞいて極力、週末のイベント取材には行かない主義なのだが、きのう(9月15日)は関係者の売り込みに根負けして、観光客や家族連れでにぎわう東京駅近くのリクルート社屋へ。グループのリクルートキャリアが開催する「ふるさと副業会議」なるセミナーをのぞきに行ってきた。

このセミナーは、全国規模での事業展開をめざす福岡の企業と、首都圏の人材ともマッチングを目的にしている。過去のUターン・Iターンブームと違うのは、副業で福岡で働くという「プチ移住」「プチ転職」が前面に出ている点だ。働き方改革で国が副業を推進し、大企業でも社員の副業解禁の動きがみられたことで2018年が「副業元年」と言われるトレンドを反映している。いきなり地方に移住して働くというのは、家族の問題もあったりして、たとえ興味がある人にとってもハードルがある。しかし、副業ならたとえば週1日とか週末限定勤務といった具合で、ハードルは低くなるだろう。

セミナーでは最初に、茨城出身で3.11を機に東京から福岡へ移住し、ウェブマーケティングの会社を運営する須賀大介さんと、東京のIT企業でPRの仕事をしながら、在京の福岡好きを集めたコミュニティを組織する山田聖裕(きよひろ)さんがパネルディスカッションで経験談を披露した。

福岡で働くことの魅力を語る須賀大介さん(左)と山田聖裕さん

福岡には地縁がない状態で移住して苦労したという須賀さんは、「いまの地方創生は定住から入るので移住しづらい。まず地元の企業さんとしっかりつながっていったり、エリアを知ったりすることは入り口としていい」と評価した。また、山田さんは「これまでは、東京が文化を作ってきたが、地方に愛のある人たちが新しい働き方を作っていく時代。そいろんな失敗や壁があるだろうが、自分がそこの第1人者になるという思いでやっていただければ」とエールを送った。

福岡では職住接近する分、東京よりは子育てとの両立がしやすい環境だろう。全体の所得が減る懸念はあるが、物価が下がる分、可処分所得が増えるという魅力はある。

一方、副業でハードルが低くなるのは雇う側の地域企業も同じだ。全国区へのステップアップをめざす上で必要な、先端的なノウハウや知見を持つ人材と出会う、またとないチャンスになる。この日は家具、明太子、民工芸品、博多織を扱う4社の社長らがプレゼンし、福岡での副業就業を考える人たちにアピールした。

副業人材獲得レースで福岡がリードできそうな背景

人材業界では近年の地方創生トレンドに対応した取り組みが盛んだ。副業にもその波は及んでおり、アゴラでも昨年11月、小林史明衆議院議員が、地元の広島県福山市がビズリーチと提携して副業人材の獲得に乗り出したことを紹介する記事を掲載したことがあった。

そういう意味では、リクルートも動きを本格化させてきたという点で、今後、各地域間で副業人材の獲得競争が盛んになる可能性は高い。ただし、これはお世辞ではなく、客観的な情勢から指摘するが、福岡はいま「勢い」がある点でアドバンテージがあるのは確かだ。

たまたま、木下斉さんの大ベストセラー『福岡市が地方最強の都市になった理由』(PHP)を読んでいた最中だったのだが、近年の福岡市を中心とした、このエリアの躍進ぶりは注目度が高い。福岡市の人口は2015年に神戸市を抜いて政令市で全国5位に浮上。政令市のなかでの人口増加率(2010年10月〜2015年10月)では、川崎、仙台などの3%台を大きく抜く5.12%と群を抜いてトップ。10代、20代の若年人口率では政令市ナンバーワンだ。

少子高齢化という言葉を吹き飛ばすデータを物語る一つの現象が、IT企業の活躍だ。LINEやSansan、サイバーエージェント系の子会社といったビッグネームが近年、続々と福岡に拠点を構え、西日本でも随一のクリエイティブ都市になっている。

人材獲得も民間主導が「福岡流」

木下氏の分析では、福岡市が発展した要因の一つに、民間主導・民間投資でまちづくりを進めてきた点がある。行政主導だと公金による開発となるため、他都市の成功事例を安直に模倣したり、無難な中身になったり、計画が甘くなったりする弊害がある。しかし、一歩先の時代を見据えた「尖った」ことをやるのは、民間ではないと難しくなる。その点、福岡は民間主導で発展してきた歴史があるので、挑戦的な気風も作って、時代のトップランナーと相性の良い街になっているようだ。

今回、リクルートキャリアのイベントは、福岡市や福岡県など自治体は絡まず、地元企業との提携だけという「完全民間型」。副業の人材獲得においても「らしさ」を感じさせる。

地域によって置かれた事情は違うので、前述の福山市のように役所が民間と手を組むことが悪いというのでは決してない。ただ、「完全民間」「半官半民」など、さまざまなアプローチで都市部のよりよい人材獲得に向けた地方同士の「戦い」はすでに始まっているのだ。