「宗教はいつから始まったか」を書いたので、その反対の「無神論者はいつ生まれたか」を考えてみた。無神論的唯物世界観から共産主義が出現し、一時は世界を席巻する勢いを見せた。幸い、冷戦時代は神を信じる民主主義陣営が勝利したが、共産主義陣営の残滓は今なお、至る所で見られる。
今年はカール・マルクス(1818~1883年)生誕200年を迎えたこともあって、共産主義の実態について多くの特集が掲載されている。共産主義を標榜してきた国々で総数1億人以上の人々が犠牲となってきた。人類史上最悪の思想はどこから生まれてきたのか。ここでは、旧約聖書「創世記」に遡って共産主義世界観の起点を少し探ってみた。
アダムとエバにはカインとアベルの2人の息子がいたが、カインがアベルを殺害したため、神はカインをエデンの東のノドの地に追放した。カインが定着した地「ノド」は放浪者、逃亡者という意味がある。
「創世記」第4章に記述されているカインの系図を見てみる。カインには息子エノクが生まれた。そして、イラデ、メホヤエル、メトサエル、レメクと続く。レメクには2人の妻、アダとチラがおり、それぞれ2人の子供を産む。
レメクは「強い者、征服者」を意味する。セツの息子エノスが「弱さを持った者」を意味したことは紹介したが、レメクとエノスはまったく異なった生き方、世界観を示している。エノスから神を求める「宗教」が生まれ、カインの血統を引くレメクから「無神論世界」が生まれ、最終的には「共産主義」となって実を結ぶ。
レメクは2人の妻に「カインのための復讐が7倍ならば、レメクのための復讐は77倍」(創世記第4章24節)と語っている。レメクはこの時、強い闘争心を吐露したわけだ。
アダム・エバの家庭を失い、アベルも殺害された神はセツを通じて、失った「エデンの園」の回復を試みる一方、カインの血統から出た人々はこの地上に“第2の創造”を始めていく。
「バベルの塔」の話はそのシンボルだ。創世記第11章によると、「さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そしてわれわれは名を上げて、全地のおもてに散るのを免れよう」という。彼らが結束し、勢力を拡大していくのを見られた神は彼らの言葉を乱し、町を建てるのを阻止している。神が直接介入した珍しいケースだ。
蛇で象徴された大天使ルシファーは神の創造の業を見てきた。そのルシファーがエバを誘惑し、ルシファーのDNAがエバに継がれて人類に広がっていった。一つとなれば、必ず相手側の性向、気質を引継ぐからだ。
具体的には、ルシファーはアダムとエバから生まれたカインの血統を通じ、この地上世界を創造していった。文字通り“第2の神”となったわけだ。
ちなみに、「エデンの東」という表現があるように、聖書の世界では「東」は失ったものを取り戻すための救いの方向を示唆している。堕落後、セツもカインも「西」ではなく、「東」に向かって移動していった。
歴史はセツの血統とカインの血統に分かれ、ヘブライニズム(神主義)、ヘレニズム(人本主義)の2大潮流を形成し、ヘレニズムは最終的には神を否定する無神論世界観を構築し、共産主義となって出現してきた。
ところで、旧約聖書には長子と次子に関する記述が多い。そして不思議なことに、次子は神の祝福を受け、長子は神の祝福圏外に立っている。まだ何もしていない胎児の時から、「神は次子を愛し、長子を憎んだ」(「ローマ人への手紙」第9章)と記述されている。人類の最初の長子はカインであり、次子はアベルだ。カインがアベルを殺害して以来、聖書では長子は神の愛を直接は受け入れられないカインの末裔として描かれている。
すなわち、カインの血統には「神から愛されなかった」、「神の愛を受けられなかった」というDNAが刻みこまれているから、愛されている次子、神の愛を受ける者を見ると、強烈な敵愾心、憎悪が出てくる。
共産主義はカインの系譜から生まれた思想であり、その根底には憎しみ、恨みが溢れている。労働者に資本家の搾取を訴え、その奪回を唆す。神を否定し、暴力革命も辞さない。そのカインの思想、共産主義を如何にソフトランディングさせるかが大きな課題となる。
蛇足だが、無神論者は神の存在を否定するが、神への関心は常に備わっている。無神論者は生来、神の存在に無関心ではいられない。その点、ニヒリスト(虚無主義者)や不可知論者とは異なっている。現代で最大の「死に至る病」は無神論者ではなく、ニヒリストかもしれない。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。