借金はないほうがいい

金融にとって、金融機能を利用する側の視点にたって、その目的を考えることが重要なのである。それが資金の借入需要なら、資金使途だけが問題であって、資金使途が運転資金の調達なら、その最小化のための経営の効率化こそが課題となって、その結果、運転資本の借入が不要になれば、それに勝ることはないのである。

資金使途が設備の取得なら、設備の効率的利用だけが課題なのだから、総合的な経営効率の面で、資金を借りて設備を購入するよりも、設備そのものを借りたほうがよければ、融資を受ける必要はなく、リースやレンタルにすればいいことである。

リースは、ファイナンスリースはともかく、オペレーティングリースになれば、金融の限界に達し、レンタルともなれば、もはや金融ではない。しかし、そうした金融の境界が問題となるのは、どこまでも金融機関の視点だからである。顧客の視点で考えたとき、金融機関の提供する機能を使わないほうがいいのなら、それでいい。

実際、人は住宅が欲しいのであって、住宅ローンが欲しいのではない。現在の日本では、住宅が量的には余りにも過剰であるのに対して、質的には貧困であることが大きな問題となっている。これは、これまで長らく、住宅本来の機能である住むことの利便性よりも、住宅を所有することに力点が置かれてきたことの帰結である。そして、その住宅所有を金融面で支援してきたのが住宅ローンなのである。

確かに、耐久消費財として住み捨てられる住宅は、過去の経済成長に対する貢献が大きかったのだが、未来へ向かっては、住み続けられる資産としての住宅への転換、即ち、機能として住宅に住むことと、資産として住宅を所有することとの分離を通じて、住宅を高品位化することが必要である。住宅に限らず、量から質へ、この転換は、日本経済の全ての分野における課題なのだ。

結果として、住宅所有が投資運用業として産業化されていけば、個人向け住宅ローンは、確実に縮小していき、最終的には消滅してしまうだろう。その裏には、住宅が欲しいという需要が後退して、ライフサイクルに応じて最適な住宅を借りて住みたいという需要に代替されていく生き方の転換があるわけである。

要は、住宅ローンの社会的目的を遡行していくとき、まずは、住宅所有という欲求があり、その先には、より根源的な居住という目的が見つかり、目的の実現における居住の質の高さが追求されていくとき、高品位な住宅供給のあり方に革新が生じて、住宅ローンは消滅し、別の金融機能、もしくは金融機能ですらないものに代替される、それが居住における社会の進化ということなのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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