将来の日本の国債市場を見据えて、物価目標の再考を

7月30、30日の日銀金融政策決定会合の議事要旨には次のような指摘があった。

「何人かの委員は、わが国の国債市場では、このところ長期金利の変動幅がさらに縮小し、取引高の減少傾向が目立っていると指摘した。」

7月31日の金融政策決定会合では、金融緩和策の柔軟化というか弾力化が図られた。現在の金融緩和の持続性を強化する措置として、「長期金利の変動幅として、これまでの概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動しうることを念頭に置くことが大方の委員の合意となるのであれば、本日の議長による記者会見でこれを明らかにしてはどうかと提案した。」とある。実際に31日の黒田総裁の記者会見では、「上下その倍程度」という認識が示された。

これを受けて8月2日に日本の10年債利回りは0.145%まで上昇した。これに対して日銀は急激な金利変動を抑制するためとして、臨時の国債買入をオファーした。これは指し値オペではなかったものの、市場は0.150%以上の金利上昇までは容認していないのかとして、ここで10年債利回りの上昇はいったんストップした。

その後の債券市場は再び7月31日以前の膠着相場に戻りつつある。

9月25日の債券市場では、債券先物は8月3日以来の150円割れとなった。超長期債と呼ばれる残存20年、30年、40年の国債も売られた。

この理由としては9月21日の日銀による国債買入で残存25年超の買入予定額を100億円減額したことが挙げられる。減額幅はわずか100億円といえども、米10年債利回りが3%を超えてきたり、ドル円が113円台をつけ、日経平均も13000円に迫るなか、債券売りはきっかけ待ちとなっていたともいえる。日銀の買入減額はちょうど良い売りのきっかけとなり得たといえる。

しかし、それにより超長期債が年初来の最高利回りを更新したといっても、売買高そのものは限られた。25日の10年債カレントは前場に出合いはなく、中期ゾーン、つまり残存2年や5年の国債が日本相互証券で15時までに売買がないという異例の事態となっていた。債券先物も150円割れとなったといっても、日中値幅はわずかに8銭しかなかった。

日銀が多少、長期金利の変動幅の拡大を容認しようとも、債券市場の機能低下に対しては根本的な解消要因とはならない。イールドカーブのスティープは市場参加者にとっては歓迎されようが、売買が盛り上がらない以上、債券市場への魅力は後退するばかりとなってしまう。

こういったなか動かない債券市場の参加者が更に減っていくことも予想される。国債利回りが大きく動いたことを経験した我々世代はすでに引退世代入りしており、金利変動を経験した人も市場から自然といなくなってしまう。債券市場の機能回復には日銀の大きな政策変更という大きな壁があるのかもしれないが、達成できることは考えづらい物価目標達成というお題目のために、大きなものが失われかねない。それが将来の日本の国債市場に大きな影響を与えてしまうことも認識すべきときではなかろうか。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。