トランプ氏の“本当の友だち”探し

「ニューヨーク発時事」の2本の記事が目に入った。見出しに惹かれて記事を読んだ。一本は「米大統領、中国の習国家主席と『友人でないかも』」、もう一本は北朝鮮の金正恩労働党委員長に対して、トランプ大統領が「非常に良い関係にある」と評価している記事だ。

▲2度目の米朝首脳会談開催が期待されるトランプ大統領と金正恩氏(2018年6月12日、シンガポール CNNの中継から)

▲2度目の米朝首脳会談開催が期待されるトランプ大統領と金正恩氏(2018年6月12日、シンガポール CNNの中継から)

トランプ氏は人間を「友人」と「そうではない人間」の2つに即分ける傾向が強い。前者を持ち上げる一方、後者は厳しくこき下ろす。このトランプ氏の「友人観」はひょっとしたら同氏が日ごろから自慢するディールのエッセンスかもしれない。興味深い点は、前者と後者の間には強固な壁はなく、非常にエラスチックだということだ。

メラニア夫人と共に中国を訪問した頃、トランプ氏は習近平国家主席を高く評価していた。中国共産党政権のトップをあんなに評価して後で問題にならないかと、こちらが心配したほどだ。それがここにきて、“友人”習近平主席への入れ込みが冷えてきた。もちろん、今回も理由はある。一つは米中間の貿易戦争だ。トランプ氏は24日、第3弾目の対中制裁を発表したばかりだ、それだけではない。時事電によると、中国が米国の11月の中間選挙に大規模な干渉をしている疑いが出てきたからだ。トランプ氏は、「わが国の民主主義のプロセスを破壊するような人物と、友人になれるのか」と極めて当然の不満を吐露している。

一方、金正恩氏へのトランプ氏の人物評は急上昇中だ。「チビデブ」といった子供の喧嘩レベルから始まり、「ロケットマン」と皮肉を込めた呼称をつけ、6月のシンガポールでの米朝首脳会談後は「立派な指導者だ」と金正恩氏の政治力を評価。ここにきては「非常に良い関係」と称賛するまでになった。トランプ氏にとって、金正恩氏は今年最高の“成長株”といったところかもしれない。

トランプ氏の「友人観」がコロコロ変わるのは、政治的思惑がどうしても絡むからで、純粋な人間評とはいえないからだろう。トランプ氏の場合、目を覚ましたら、昨日の「友人」が「最悪の人間」となっていても可笑しくない。

トランプ氏は今月18日、政治専門チャンネル「Hill.TV」のインタビューの中で、ジェフ・セッションズ司法長官を批判し、「自分に司法長官がいない」と嘆いている。トランプ氏の周辺に同氏を本当に守ってくれる部下や友人がいないということだ。側近で重用していた人物が辞任後、暴露本を出版し、トランプ氏を批判する。それだけではない。トランプ氏の下部構造までメディアに暴露する昔の女友達まで出てきた。

そのような中で安倍晋三首相は数少ない政治家の「友人」かもしれない。トランプ氏が大統領に選出された後、間髪をいれずに米国に飛び、トランプ氏に「おめでとう」と祝賀した最初の海外首脳となった。その安倍首相ですら最近の日米貿易問題ではトランプ氏の強硬姿勢に驚かざるを得なくなっている。安倍首相も近い将来、トランプ氏の「友人」から「米国と不当な貿易を推進する政治家」へと、レッテルを貼り換えられるかもしれない。

国際政治とは国益外交を意味する。国益を守るために友人を探し、国益に反する人間には距離を置くことはトランプ氏が初めてではない。ただ、トランプ氏の「友人観」が少々、極端に左右に揺れるだけだ。

本当の友人を見つけるのは難しい。トランプ氏だけではない。金正恩氏、ロシアのプーチン大統領、習近平国家主席ら世界の指導者と呼ばれる政治家も程度の差こそあれ、同じ悩みを持っている。

元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が3月4日、英国ソールズベリーで猛毒の神経剤で暗殺されそうになったが、プーチン氏は間接的だが「国を裏切った者は許さない」と犯行を匂わせている。国、そして自分を裏切る者に対し、プーチン氏は強烈な復讐心を抱く。同時に、同氏からは信頼できる人間、友人がいないことに対する言い知れない渇きを感じる。

トランプ氏と金正恩氏が本当の友人となれるかは分からないが、両者には年齢の差こそあれ共通点がある。友人はいないが、両者の周囲には親族関係者がいることだ。

金氏には実妹の金与正さん(党第1副部長)が心配りをしている。南北、米朝首脳会談の舞台裏で兄・金正恩氏を内外共に支えている姿があった。トランプ氏には“美しすぎる女性”とメディアで呼ばれる長女イバンカさんとその夫、ジャレッド・クシュナー氏(大統領上級顧問)が父親のトランプ氏が脱線しないように注意を払っている。いずれにしても、親族が友人の代役を務めているということは、信頼できる人間が近くにいないことを実証している。

「真の友は人生の宝物」という言葉を聞いたことがある。また、「まさかの時の友こそ真の友」という格言も聞く、政治家だけではなく、全て人間は本当の友を探している。

トランプ氏のこれまでの2年弱の任期で最高の功績は、外交と政治上の政策を除けば、「友人」という言葉を政治の世界に持ち込み、「人生で友がどんなに価値あるものか」を再認識させてくれたことではないか。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。