融資というのは、原則として、債務者に定期的な所得があって、それを基にして債務を弁済できることを条件に、実行されるものである。それが金融の原理原則だ。では、学生に融資できるか。学生は、一般に所得がなく、債務の弁済能力のない人だから、融資できないはずである。
しかし、学生は、学業を終えた後、職に就くことが予定されているので、今は所得がなくとも、将来においては所得があるはずである。というよりも、将来の所得を得るために学業に励むもの、それが学生である。故に、その将来所得を弁済原資にすることで、学生に対する融資も可能になっている。いわば出世払いである。
実は、企業に対する設備投資資金の融資も、設備が稼働して得られる将来売上げを弁済原資にしているという意味では同じである。もっとも、通常、債務者の企業には、既に稼働している設備があって、そこに売上げがあるのだから、弁済原資として、新設備からの将来売上げが見込まれているにしても、原則として、現在の売上げの範囲において、弁済のめどのあることが必要であって、故に、利息の支払いは当然として、場合によっては、元本の部分弁済も融資実行時から開始される。
こうした融資においては、銀行等の姿勢として、将来売上げの評価について、過剰に保守的になりやすいことは否定できない。つまり、厳格に、現存の売上げだけを評価して、審査をすれば、融資額は小さくなりがちで、企業の事業計画を実現できない場合もあり得るということである。
それでは、産業の成長のための融資という金融の社会的機能に悖ることにもなりかねず、故に、金融庁は、銀行等に対して、事業性の評価、即ち、企業の事業の現況ではなく、企業の事業活動の将来を見据えた融資政策を求めるに至ったのである。
ただし、いかに金融庁でも、全くの新企業において、売上げが何もないなかで、新規に設備を建設するための資金についてまで、銀行等に対して、積極的な融資を求めることはできない。これは、完全に融資という金融機能を超えていて、別の金融手法、代表的にはベンチャーキャピタル等からの出資によらざるを得ないのである。
出資とは、弁済の具体的条件が全く付されていない資金調達手法だから、起業等においては便利な方法なのである。いわば、完全な出世払い債務だ。念のためだが、出資も広義の債務なのである。債務だからこそ、調達側の企業の経営者は、出資者、即ち株主に対して重い責任を負う、弁済条件がないだけに、企業の自己規律として、より重い責任を負う、これがコーポレートガバナンスということの真の意味である。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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