沖縄県民投票の愚劣と英国EU離脱からの教訓

八幡 和郎

沖縄県知事選に当選したばかりの玉城デニー氏が辺野古で県民投票とか戯言言っているが、そんなものは、与党サイドはボイコットすればいいだけのこと。

玉城氏ツイッターより:編集部

そもそも、基地をどうするかは沖縄県の権限でない。それに、代替案は、それについて、合意が成立しない限りは、普天間に残すということである。勝手にすればよい。

そういう法的な問題を別にしても、そこで設定されている選択肢が、適切なものになりそうもないことだ。直接民主主義的な手法を採り入れることは悪いことではない。ただし、その欠点にも十分に配慮して適切な運用をしなければならない。

よくあるのは、民主主義における意思決定は、取引の集成であることを忘れがちなことだ。間接民主主義の本質のひとつはそこにある。そのことによって、少数者の利益が守られるのである。

たとえば、ひとつの町に少し人口の違うふたつの地区があるとして、公共施設の場所を住民投票で決めたら、すべて人口の多い地区にひとつだけおけばいいことになってしまうがそれで良いはずない。

もうひとつの問題は、住民投票における選択肢が雑ぱくすぎて、その結果、二者択一としての意味を成していないことが多いことだ。

イギリスのEU離脱を求める投票では、あとで「そんなことなら、賛成するのでなかった」という問題がたくさん出てきた。

そのなかで一番の問題は、北アイルランド問題だ。少数派のカトリックによるアイルランドへの併合を要求しての内戦を終結させるために、アイルランドと北アイルランドの国境を事実上、撤廃することで合意していた。

ところが、EUを離脱するとなると、この約束は維持できなくなる。そこで唯一の解決は、北アイルランドだけはEUに残留させて、北アイルランドとイギリスのあいだに事実上の国境をつくるしかない。

しかし、こんなこと多数派のプロテスタント住民にとって我慢できるはずがない。

そんなことは、国民投票の前から分かっていたから、その点も投票の選択肢にいれておくべきだった。つまり、「EUから離脱する。しかし、北アイルランドはEU内に留まり、北アイルランドとイギリスの間には国境を設ける」という投票内容にすべきだったのだ。

そして、いま、それがいま障害になって、いま、合意なき離脱が現実化しかねない状況だ。

そうなれば、論理的には、EUは一方的に国境をつくるしかないが、それでは、北アイルランド内戦が再開しかねない。

玉城デニー氏が県民投票をするというなら、「辺野古での基地建設の中止を求める。普天間基地の県外移転を求めるが、それが実現するまで、普天間基地が維持されてもその方が良い」という選択肢にすべきだ。

誤解だらけの沖縄と領土問題 (イースト新書)
八幡和郎
イースト・プレス
2018-10-07