近年、新聞・テレビなど既存メディアに対する不信とともに、ネットメディアの台頭が叫ばれて久しい。選挙においても2013年にようやく「インターネットによる選挙運動」が解禁され、年々ネットやSNSを利用した選挙運動が展開されている。
その一方で「シルバー民主主義」という言葉に代表されるように、既存メディアを主たる情報源とする高齢者層が、高い投票率も相まって、依然として選挙結果に大きな影響力を持っているという厳然たる事実が存在している。
人口統計的には、いずれ若者・青年層の「ネット世代」が、壮年・高齢層の「既存メディア世代」を数の上で圧倒する日がやってくる。果たして、その日はいつなのだろうか。本稿では、将来的な世代間の投票者数の推移を簡易的にシミュレートし、ネット世代が政治的影響力を持つ日が果たして何年後になるのか、考えてみたい。
選挙時、有権者の3割がネット利用
まず現状として、昨年総選挙時の有権者投票行動を探るために「公益財団法人 明るい選挙推進協会」が実施した調査を参考にする(『第48回衆議院議員総選挙 全国意識調査 調査結果の概要』2018年7月)。以下は、昨年の総選挙で有権者のインターネット利用状況を聞いたものである。[全国の満18歳以上の男女有権者を対象、標本数3150人、層化2段無作為抽出法、2018.1/26~2/21、総回収数2208(70.01%)]
ネット利用は全体で約3割であるが、世代別で見ると40代以下が約4割強、50代以上が2割強と差がある。いわゆる「デジタルネイティブ(学生時代からネット・PCのある環境で育ってきた世代)」が1970年代後半生まれあたりからと言われているように、おおよそ40代と50代との間に大きな差が存在していることが当調査からも確認することが出来る。
ただ、ひとくくりに10年一世代で大まかに調査しているので、例えば40代前半と後半で意識は違うであろうし、仮にネットを利用していてもその情報に対して信頼しているかどうかはまた別の話であるので、その点は注意が必要だ。(メディアの信頼度に関する調査は、総務省「平成29年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を参照)
現状のネット世代の政治的影響力は?
以上を踏まえつつ、仮に「40代以下をネット世代」「50代以上を既存メディア世代」とおおまかに定義したとすると、実際の投票数としてどれだけ差があるのか確認してみよう。以下、平成29年に実施された第48回衆議院議員総選挙の世代別投票数である。(総務省「2017年10月22日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果」全国の投票区の中から、188投票区(47都道府県×4投票区)を抽出し、男女別及び年齢別に投票率を調査)
グラフ・表のように、ネット世代の投票率が低いため実際の投票数が少なく、政治的影響力は3分の1程度である。一方、既存メディア世代は投票数で優っており、政治的影響力は3分の2程度となっている。現状では、既存メディアを主たる情報源とする壮年・高齢世代が選挙においても影響力を持っていると言えよう。
過半数を占めるのは15年後
では、ネット世代が過半数を占めるのはいつなのか。前述の総務省の資料とともに、筆者が簡易的にシミュレートしたのが以下である。(2017年の調査をベースに世代をスライドさせ、不足する数字は総務省統計局の人口予測等を参考に作成)
あくまで簡易的な予測なので厳密なものではないことを断っておくが、グラフ・表を見ると、2017年から「15年後の2032年」にようやくネット世代が過半数を上回るという結果となった。
政治的影響力を持つために
もちろん、今後若い世代の投票率が上昇するかもしれないし、高齢世代においてもネット使用や信頼度が浸透する可能性もあり得る。また、東京などの大都市は若者が多くネット世代が優位であろうし、一方、高齢者が多い地方では15年後でも既存メディア世代の方が優位であろう。加えて、ネットと既存メディアをここでは対比させたが、例えば新聞社がネットメディアを運営するなど、両者を単純に仕分ける自体も実際は難しい。
しかしながら、選挙に携わってきた肌感覚からすると、地域差はあってもこの数字はおおよそ当たっているように感じる。人口統計的には、ネット世代が政治的影響力を発揮するのにまだ15年かかるようだが、少しでもその日が早まるよう、若年層の投票率向上ならびにネット選挙の利用が一層進んでいくことを願うばかりである。
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堀江 和博(ほりえかずひろ)
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。
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