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なぜサンプラザは建て替える必要があるのか②
少子高齢化は、我々に厳しい現実を突きつけることは国の試算から誰もが認識している。
しかし、個別地方自治体の財政において数年の短期的な予測はするが、中長期的な予測がないために将来へ対しての戦略が計画できない自治体がほとんどである。そこでオープンデータを活用した自治体財政のマクロの将来推計手法について、東京都中野区を例に提案したい。
まず、絶望的な結論から示す。生活保護費が人口ピラミッドのベースで上昇した場合の歳入と歳出の推移である。
図 歳入・歳出の各費目の推移(2007~2017年実績・2020~2045年将来推計)
将来の財政の状況を一目でわかるようにするため、現状の行政サービスが今後も続くと仮定したときの黒線の基金(貯金)と特別区債(借金)の推移予測を示す。2020年以降、貯金は徐々に減少し、2035年には使い果たし、その後は借金という状況になる。
しかし、財源はないので人材・施設の削減等を含めた行政サービスの予算圧縮、区有財産の処分等をせざるをえない、お先真っ暗な将来の財政状況である。
使用データ
将来推計の手法について説明する。使用データはインターネットで誰もが入手可能なオープンデータである。
決算額は①の資料に掲載されている下記の費目を使用する。
【歳入】特別区民税、特別区交付金、その他一般財源、国・都支出金、特別区債、その他特定財源
【歳出】人件費(職員給与)、扶助費[生活保護費・児童福祉費・社会福祉費・その他](現金・物品・サービス経費)、公債費(借金の返済)、投資的経費(施設等整備・改修費)、物件費[賃金・需用費・役務費・委託料・備品購入費・使用料及び賃借料、職員旅費等](消費的経費)、その他[国民健康保険事業特別会計繰出金・後期高齢者医療特別会計繰出金・介護保険特別会計繰出金・その他]
②③の人口には差異があるために2015年10月1日データを使い②に揃うように倍率補正をかけた。
各費目と各年齢人口との関係
財政において少子高齢化は、生産年齢人口の減少に伴う歳入の減額、高齢化による社会保障費の増額となるため、この現象に歯止めがかからなければ、同様もしくはそれ以上の行政サービスを提供することは困難となる。人口ピラミッドが財政に対して、将来どのような影響を与えるのか、人口と財政に大きな相関があると仮定し、将来推計人口データを用いて試算する。
人口と財政の相関を調べるため、2007~2017年の各費目の決算額と年齢階層人口における関係を導き出す。人口と費用の関係が完全に比例関係であると仮定し、各費目において2007~2017年分のデータで切片ゼロの回帰直線を得た。
まず、生活保護費と人口の関係を示す。相関が高いと考えられる65歳以上、70歳以上、75歳以上、80歳以上の各年齢層の合計の関係である。
4種類の人口総計との相関を比較したところ、80歳以上の総計が最も相関が高い。この黄色の線と将来推計の80歳以上の年齢階層合計に基づき、生活保護費の試算を行う。 次に特別区民税と納税義務者数と相関が高そうな15~64歳、20~64歳、20~69歳、25~64歳、25~69歳の各年齢階層合計と比較した。
生活保護費ほど相関が高い年齢層はないが、右肩上がりの関係を描いている。リーマンショックを含めた景気変動による特別区民税の増減などが主要因とも考えられるが、景気の良し悪しを含んだ平均的な関係ともいえる。20〜69歳が最も相関性が高いため、この年齢層と特別区民税の関係を将来推計として使用することとした。
以上のように各費目で妥当な理由と相関を見極めて、相関が高い年齢層を選択した。
人件費や投資的経費など人口ピラミッドの影響が及ばない費目については直近のトレンド、過去11年間の平均値などとした。
人口ピラミッドの変化
次に将来推計に用いた人口データは国立社会保障・人口問題研究所の中野区における将来人口推計の概略を示す。データとしては5歳刻みの合計値が出されているが、ここでは19歳以下と20〜69歳と70歳以上に分類した。
図 0~19歳・20~69歳・70歳以上の人口の推移
2018年以降は20~69歳の人口が減少し、2000年以降は総人口の減少はないが高齢者の比率が高まる。この人口ピラミッドの変化と各費目の相関から2045年までの各費目の推移を示す。
各費目の将来推計
歳出の各費目の2007~2017年の実績と2020~2045年の将来推計値を図に示す。
図 歳出の各費目の推移(2007~2017年実績・2020~2045年将来推計)
人口の変化が金額に反映される費目は人口から推計した。人口からの推計値はほとんどが上昇するが、児童福祉費のみが低下傾向にある。生活保護費の上昇が著しく、人口ピラミッドから推計すると赤の実線となり、2045年には2017年161億円の2倍の321億円となる。
また、ここ4年間くらいの上昇傾向を反映するならば、増額率0.8%となり、赤の破線のように上昇する。また青の実線に示される委託も急激な上昇が懸念される費目であるが、ここでは毎年の上昇率を1%と仮定した。人件費は今の200億円程度を維持し、投資的経費は2013~2017年において目標とする施設改修が達成されていることから、その5年間の平均値を与えた。公債費は2019年までに借金を全額完済すると仮定し、2020年以降はゼロとした。その他推計においては過去11年間の平均値を与えた。
歳入の各費目の2007~2017年の実績と2020~2045年の将来推計値を図に示す。
図 歳入の各費目の推移(2007~2017年実績・2020~2045年将来推計)
生産年齢人口等の減少により、特別区税、特別区交付金が減少している。国・都支出金は国と東京都からの補助金の合計である。近年大きな上昇傾向がみられるが大きくは公園等の用地取得費に関するものであり、今後は全く取得がないと仮定すれば、2020年の金額程度となる見込みである。2020年以降の上昇は生活保護費の上昇が含まれている。
現行ルールでは生活保護費は国から3/4の補助事業であり、金額も小さくないため、国・都支出金に反映した。その他一般財源の主は地方消費税交付金で消費税収が反映する2015年から大きな上昇がみられるため2015~2017年の平均値を将来推計として与えた。特別区債は今後発行せず、その借金は2019年までに完済し、返済に充てていた分をその他特定財源に充当することとした。
歳入・歳出の推移
歳入・歳出の推移を再掲する。
緑線が歳入、水色線が歳出である。生活保護費は国から3/4の補助金が出されるため、見かけの歳入は横ばいである。生活保護費1/4は自治体が支出する上に、生活保護費以外も上昇するため、歳出は右肩上がりで、歳出が歳入を上回るために赤字体質となる。
ここでは理解がしやすいように、区は2019年までに借金198億円を完済し、区債残高をゼロとする。2020年以降は実質収支(歳入と歳出の差)がプラスの場合は、基金に積み立て、マイナスの場合は基金を切り崩し、基金がなくなったら、起債をするシンプルな運営をすると仮定した。
しかしこれは大規模な用地取得などは全くなく、新たな公園整備は行わない前提である。また景気・物価変動もあるが歳入も歳出も同様に変化するため、そのあたりを無視したマクロ試算である。今から2020年には実質収支がマイナスになり、基金は減少し、2035年には借金なしには財政が立ち行かないが、歳出が歳入を下回る見込みはなく、借金をなくせる見込みがないため、歳出を減少する努力が必要不可欠である。 生活保護費の上昇の抑制ができた場合は次の図となる。
(再掲)図 歳入・歳出の各費目の推移
(2007~2017年実績・2020~2045年将来推計)
借金を背負う時期を遅らせ、抑制はできているが赤字体質から抜け出せない。社会の習慣・制度が変わらない限りこの傾向は続いていくことを示唆している。
歳入を増加させることは国に任せるとして、自治体としては抜本的に行政サービスのあり方、AI・IoTを活用した人材の配置、更新時期にある施設の削減を含めた適正配置などを検討し、支出の抑制に努めるほかない。
将来これだけ財政が厳しくなることが中野サンプラザを維持できない理由のひとつでもある。