9月26日、安倍晋三首相はアメリカのトランプ大統領と、ニューヨークで会談を行った。2国間の自由貿易協定締結に向けて、協議を開始することで合意したのだ。
アメリカの対日貿易赤字は、690億ドルに達する。このうち、自動車部門が実に3分の2を占めている。いうまでもなく、トランプ大統領は、この事実におおいに不満を持っている。だから、自動車の関税をなんとしても上げたいのだ。
事実、アメリカは中国に対し、2000億ドルにおよぶ中国製品の関税を10%引き上げる、と決定した。つい半月ほど前の、9月17日のことだ。
一方の中国は、600億ドルに当たるアメリカ製品に関税を5%、あるいは10%引上げた。報復に出たのだ。
今回の日米首脳会談を前に、僕は外務省や経産省、官邸の幹部などに取材をした。彼らはみな口を揃えて、「日本は、大筋としてはTPPを求めている。だが、部分的な2国間協議に応じ、農産物では妥協し、できれば自動車への関税を、暫定的であれ先送りにしたい」とのことであった。さらに加えて、「アルミニウム、鉄鋼などの関税も先送りにしたい」とも話していた。これが日本側の戦略なのだろう。
一部のメディアの論調は、「結局、トランプ大統領の要求を飲まされてしまうのでは?」と、悲観的だった。だが、会談の結果を見るかぎり、ほぼ日本の戦略どおりに、ことが進んだようだと僕はとらえている。
1970年代の日米繊維交渉、1980年代の自動車、ハイテク分野における摩擦など、戦後日米経済の歴史は貿易摩擦の歴史だったと言ってもいいだろう。
そして日本は、妥協に妥協を重ねてきた。今回も交渉後に、トランプ大統領が突如、強気に出るおそれもある。日本側がどこまで粘れるのか、期待はしたいのだが。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2018年10月5日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。