少子化対策が空転、虐待最多
虐待を受けている疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した人数は今年上半期、過去最多の3万7000人に上りました。政府が重視している少子化対策、出生率の引き上げが空転しています。多くの人の涙を誘った船戸結愛(ゆあ)ちゃんの虐待死事件の検証報告書(3日)も公表され、児童相談所の連携がずさんだったとの指摘がなされました。虐待死は結愛ちゃん含め、19人でした。
特別養子縁組制度により、知人が民間団体・病院の支援を受け、経済的な理由で育児ができない親から幼児を引き取り、3年になります。子宝に恵まれないからこそ、愛情を降り注いで育てる。元気いっぱい育っている様子を知るたびに、失われたかもしれない生命を救う道はある。その子にとっては、天国と地獄、その落差はあまりにも大きいのです。
児童虐待は世界的な傾向らしく、米国では年1600人(14年)が亡くなりました。それだけに児童相談所数、担当職員数も日本よりずっと多く、手厚い保護体制を敷いています。日本も児童福祉司を来年度から4年間で、2000人増員し、今の1・6倍にする計画です。
結愛ちゃん事件でコメント多数
船戸結愛ちゃんの虐待死事件について、私はブログ「子を虐待死させた親は死刑に相当」(6月7日)を書きました。その前にも「子の虐待死には親は死刑か終身刑」(15年10月11日)をアップしています。私のブログにしては、寄せられたコメントは異例の数に上りました。
「親は悪魔か。この親は人間ではない」、「事件を知って涙が止まらない」、「結愛ちゃんがどんな気持ちで毎日を生きていたのか、考えているだけで涙が止まらない」、「5歳の小さな子が、どんな気持ちで、もう許して下さい、お願いしますと、ノートにつづったのか」、「電気も暖房もない部屋で、一人でどんなに寂しかったか。冷たいシャワーをかけられ、殴られ、どんな辛かったか」など。
親に対する刑罰については、極刑を求める声が大半でした。「残忍な虐待には極刑が待っていると、知らしめるべきだ」、「もっと罪を重くしないといけない。死刑か終身刑に賛成だ」、「自分で身を守れない者に対する非道な行いに司法制度は甘すぎる。これでは虐待に歯止めがかからない」など。
児童虐待は「意図的な殺人」と区別され、「保護責任者遺棄致死罪」が適用され、亡くなった場合、「3年以上20年以下の懲役」で、殺人罪より軽くされています。「虐待死は継続的な暴力による殺人そのものだから、殺人罪を適用したらよい」、「子供にしたのと同じ罰を与え、子が受けた痛みを覚えさせる」というコメントがありました。
米国は厳罰化、懲役105年も
児童虐待に対しては、欧米でも懲役の年数には大差はありません。ただし、判決現場では厳罰化の方向にあり、米国では3歳の息子を殺した夫婦に対し、「第二級殺人罪、親による子供の殺害、育児放棄、身体への傷害、犯罪の隠蔽」などがいくつも加算され、終身刑に加えて懲役85年(夫)、同105年(妻)という判決(ウウェストバージニア州)が下されたという報告を目にしました。
もっとも、厳罰化だけでは虐待は防げません。虐待が増えている社会的な背景には「妊娠先行による結婚の増加、その離婚率の高さ、10代の母親の出産数増加、母子家庭の貧困率の高さ、育児によるストレス増加」など、多様な原因があるとの報告書もあります。
米国の研究では、かりに虐待死に至らなくても、「虐待を受けて育った子は、暴力事件を引き起こし、逮捕されることが多い。刑務所の囚人にそうした子が多い。自分が親になった時、子を虐待するという連鎖がある」そうです。心の傷は大人になってからも消えないので、その面のケアが欠かせません。
冒頭に申し上げた知人のケースでは、経済的に余裕がないのに出産し、さらに夫がうつ病で退社し、妻が働きに出なければならなくなったそうです。産院からの連絡を受け、特別養子縁組を斡旋している団体が間に入り、育児を断念した乳児を世話したのだそうです。
ある報告では、米ロサンゼルス郡(人口870万人)には児童相談所が17、児童福祉司3500人で、これに対し横浜市(370万人)は相談所4、福祉司81で、大差がついています。生まれてきた子を大切に育て上げることは、貴重な少子化対策です。不幸にして虐待を受けてしまった子には、心の傷が尾を引かないようにケアしながら見守ることも、社会の安定のために必要なことです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。