スペインはモロッコや南米からの麻薬の導入国として、その密輸入の量は年々増えている。それに比例して収入が増えているのが、その密輸入を密かに手伝っている治安警察官、税関職員、沖仲仕だという。密輸入された麻薬が治安警察や国家警察によって検出されないように彼らの協力が必要なのである。それに対して報酬として密輸入された麻薬の30%が彼らの手元に渡されるというわけである。
例えば、南米コロンビアからコンテナーに積んでスペインへ密輸入されたコカインを麻薬組織とグルになっている税関職員がそのコンテナーの通関検査を担当。それが少量であればコンテナーを開けて沖仲仕がそれを取り出し、そのあとコンテナーの扉につけてあったシールとそっくり同じものをまたつける。治安警察官はそのコンテナーが船から港に積み下ろされてから、港を出て輸入業者に配送されるまでの行程で不審がられないようにコントロールするといった仕事が担当である。
これらの隠密作業に対して密輸入された麻薬の30%が冒頭で触れたように彼らに分配されるというのである。この30%という比率は固定されたもので、その中で一番取り分が多いのは治安警察官の16%から17%だという。彼らが受け取った麻薬は密売して彼らの金銭的収入になるという具合である。
例えば、キロ当たりのコカインの価格は24000ユーロ(312万円)。仮に1トンのコカインが密輸入されると彼らの取り分が300キロで、その価格は7200000ユーロ(9億3600万円)となる。
今年4月にアルへシラス港でこれまで最高の8740キロのコカインが摘発された事件があった。これは価格にして2億1000万ユーロ(273億円)に相当する。フランス人経営者を含め6人が逮捕されたが、その中に治安警察官もひとりいた。この密輸入されたコカインの30%が治安警察官らに分配されることになっていたはずであった。
コカインの取引において、一番儲けるのは南米の輸出業者とヨーロッパの販売業者だという。スペインの麻薬業者は右から左へ回す仲介業者のような役目で、1キロ当たりのコカインに対して500ユーロ(65000円)を稼ぐのが相場になっているそうだ。それをスペインの電子紙『El Español』の取材記者が明らかにした。これはある麻薬密売人からの情報で、同氏は取材記者に彼のことを「サペ」と呼んでくれと言ったという。
サペの説明によると、次の3つの点を明確にしておく必要があるという。麻薬をスペインに密輸入するのに、①どの会社を介してスペインに密輸入することができるのか、②スペインの港区域から荷物を外に引き出すのを容認してくれる協力者、③コロンビア、ブラジル、エクアドルから麻薬を発送する輸出業者への支払いをどのような形で進めるのか、という3点の明確化だという。
先ず、コカインを密輸入するのに運輸業者との接触が必要。特に南米からのコンテナー輸送を頻繁に行っていて、スペインの港でこれまで疑いを持たれたことのないクリーンな運輸会社であること。この情報について税関職員ができるというわけである。
例えば、少量の麻薬の密輸入の場合はコンテナーの荷受人、即ちコンテナーの中に積んである商品の輸入業者が知る由もなく、そのコンテナーの中に麻薬を入れてスペインに送るという場合もあるそうだ。それがスペインの仕向港に到着すると、通関を通る前に港で勤務している沖仲仕が上述しているように無断でコンテナーを開けてその麻薬を取り出したあと扉に付けてあったシールと同じものをつけなおすという作業を行うのである。
だから、サペが取材で答えているように、スペインの港の内部で(麻薬業者の為に)動いてくれる人が必要だというのである。それが沖仲仕なのである。サペの説明によると、スペインの港の中で最近麻薬業者が好んで利用している港はアルヘシラス港とバレンシア港だそうだ。
ヨーロッパの3大港はオランダ・ロッテルダム、ベルギー・アントワープ、ドイツ・ハンブルグであるが、それに次ぐ港がアルヘシラスなのである。それだけ荷物の取扱量が多いというわけで、輸入検査も完ぺきにはできないということを麻薬の密輸入業者が利用しているのである。また、バレンシア港の場合はバルセロナ港と同規模であるが、国際港としてバルセロナほど知名度がなく、その分管理システムにもまだ不十分な点がある。
次に支払いについては、麻薬業者は資金力が十分にあって、南米と取引している企業を対象に探すのだという。例えば、コロンビアで不動産事業を手掛けているスペイン企業からまず探して行くというわけである。麻薬業者は対象にしたスペイン企業に対し、現地の企業に支払いをしてくれる代わりに、その総額の17%を手数料として支払うという提案をするのだそうだ。一方、コロンビアでその支払いを受けた企業はそれを現地の麻薬組織カルテルに支払うというわけである。
またサペは女性を使っての支払い方法も取材で説明した。常にペアーであたかもレスビアンであるかのようにさせて女性二人を現地から呼び寄せ、10日から20日間の豪勢なバケーションを彼女らに提供。その後、彼女らに500ユーロ(65000円)紙幣で20万ユーロ(2600万円)を手渡し、それを彼女らはコンドームにそれぞれ10万ユーロを詰めて陰部と肛門に入れて帰国させるというのである。
購入した金額が高額であれば、その金額に匹敵するまで何度も女性を代えてペアーがスペインとコロンビアを往復することになるという。この仕事に対して彼女らに手数料として6000ユーロ(78万円)が支払われるのだそうだ。スペインの空港のパスポートコントロールで怪しまれないように同じ女性がそれを繰り返すことはないという。