本年も本庶先生がめでたくノーベル賞を受賞されました(医学生理学賞)。
そして、日本人がノーベル賞受賞するたびに「でもこれは基礎研究の予算が潤沢だった80年代以前の遺産だ。文科省が国立大を法人化して予算を削り続けている今後は受賞者はゼロになるぞ」って警鐘が飛び交うのももはや風物詩となった気がします。
でも、じゃあ文科省をやっつければ問題は解決するかと言えばそんなことはありません。「俺たちをやっつけてもいいけど、じゃあ高等教育にじゃぶじゃぶつぎ込む予算はどうすんの?」というのが中の人の率直な意見です。
そうそう、安倍政権が生活保護費を削減して左界隈から非難されてますけど、アレも同じ構図ですね。別に安倍さんは生活保護受給者に興味なんかなくて、一番削りやすいところから削ってあげてるだけの話です。
政治と行政には日々いろんな要求が殺到しています。〇〇を作ってくれ、〇〇を負担してくれ、でも増税はするな……etc
高等教育の予算削ったって文句を言うのは一部の大学の先生とポスドクくらい。生活保護の予算削っても文句を言うのは生活保護受給者と一部のリベラルくらい。というかむしろ一般の勤労者の中には拍手喝采すらするものも少なくない。
だからそういう削りやすいところから先に削られるのは当然でしょう。別に誰かが悪意を持ってやっているわけではなく、日本社会のあらゆる声を政府というミキサーに突っ込んだらこういう結果になりましたので執行しますね、くらいのノリですね。
ちなみにあえて“黒幕”を名指しするなら、はっきりいって一般歳出58兆円のうち32兆円を占める社会保障関係費なわけで、要は高齢者の社会保障なわけです(平成30年度政府予算)。
ちなみに2000年時の社会保障関係費はたった16兆円だったわけで、そりゃ2倍に増えたら削りやすいところ削るしかないですね。
団塊世代が後期高齢者に突入する中でこれからもどんどん社会保障給付は増加するので、これからも「削りやすいところ」からガンガン削りまくるでしょう。
そのうちノーベル賞の受賞者がぱったり出なくなり、貧乏人がいっぱい野垂れ死にするようになるでしょう。で、そういった案件がフォーカスされるたびに「文科省が悪い!」「〇〇政権は弱者を切り捨てるな!」「財務省の陰謀だ!」とかいろんな立場の人がわかりやすいターゲットを名指しするでしょうが、いずれも“黒幕”とは程遠い単なる執行者にすぎないので何も変わらないと思います。
処方箋ですか?個人がひたすら強く生きることですね。ZOZOの前澤社長みたくいっぱい稼いで社会保障なんてなくても充実した人生を送ること。研究したかったら08年物理学賞受賞の南部先生みたく海外の大学に行って潤沢な予算にあずかること。
でも冷静に考えると日本ってすごい国ですね。同じ「強くないと幸せになれない社会」のアメリカはちゃんと高等教育や基礎研究に莫大な投資をして未来を創造している一方で、日本はそういうの削って老人のおしめにまわしているわけで。
資本主義と社会主義の悪いところだけ両立させているような気がします。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年10月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。