米国は4%成長を謳歌し、経済は絶好調そのものいった感が漂います。
しかし、シティグループのチャック・プリンス元最高経営責任者(CEO)の言葉を借りれば、音楽はいつか鳴り止むもの。その時には、現状見過ごされている経済のクレバスがさらに大きな口を開けていないとも限りません。労働市場の指標が最大限の雇用の接近あるいは到達を示唆しても、働き盛りの労働参加率がなかなか改善しないのは、経済のミスマッチの現れといっても過言ではないでしょう。2017年の家計所得が2年連続で過去最高を更新したものの、中間層の50%と上位5%の格差が過去最大を記録したことも、記憶に新しい。
中間層のアメリカ人に対し、こんな調査結果も飛び出しました。シュワルツ・センターによれば、アメリカ人の4割を占める中間層で、退職年齢に差し掛かると共に貧困層に陥るリスクが高まっているというではありませんか。
調査によれば、50〜60歳の労働者が仮に62歳で退職した場合、同年齢ゾーンの中間層のうち約4割の850万人の所得レベルが、独身世帯で1万8,000ドル、夫婦の世帯で2万9,500ドルへ下がるといいます。そのうち、260万人が貧困層の分水嶺(独身世帯で1万1,670ドル、夫婦で1万5,730ドル)を割り込むとの試算も。①賃金の下落、②資産の下落、③医療費の上昇——がその背景にあります。
米国では公的、民間ともに年金制度は資金不足も深刻化の一途をたどります。同調査では、退職年齢とされる65歳以上になっても、アメリカ人の74%が労働を余儀なくされると指摘していました。
事実、働き盛り世代の労働参加率が低下する半面、55歳以上の労働参加率は高止まり中。9月は40.1%と、約5年ぶりの高水準を示します。さらに65歳以上に至っては9月に19.9%と、1961年以来の20%乗せに迫りました。
リカレント教育の必要性が指摘される半面、高齢者の労働環境は改善の余地を残します。こちらで紹介したように高齢者の働き口が必ずしもそれなりの賃金を約束するものではありません。
こうした所得階層の下位移動は、政治に影響を与えるリスクをはらみます。大統領選での投票率を年齢別でみると、44歳以下と比べ、45歳以上が近年、若干低下しているとはいえ高水準にあることが分かります。
足元、民主党内でサンダース・チルドレンとも言える急進左派のプログレッシブ系が大番狂わせの躍進をみせたのも、経済格差が一因と考えられます。経済格差の一段の拡大は、政治を変える原動力ともなりうるため、見過ごせません。
(カバー写真:En Chu/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年10月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。