ヘルスケアビジネスには大幅な制度改革が必要

10月の情報通信政策フォーラム(ICPF)では、NECにヘルスケア分野でのICT活用について講演いただいた。すでにセミナーの内容は公開しているが、その場での議論の中には政策検討が必要な事項が含まれていた。

超少子高齢化と人口減少によりヘルスケアは改革待ったなしである。政府は健康寿命を延伸する未病・予防ケアと終末期での医療・介護費を抑制する方向に動いている。

未病・予防には健康保険は適用されないので、ビジネスとして採算が取れなければならない。たとえば、生活習慣や健康診断結果から将来の疾病の可能性を導き出しアドバイスするビジネス。大量の過去データを統計的な傾向を見出し、それをもとにアドバイスするわけだが、企業では過去データが入手しにくい。厚生労働省はナショナルデータベース(NB)を整備し、オープンデータとして提供している。これは評価される施策だが、データベースに収録されるのはレセプト情報・特定健診情報などに限られ、生活習慣情報などは得られない。

そこで、地方公共団体と共同開発しようとすると個人情報保護法が立ちはだかる。大学であれば容易な研究開発への適用除外規定(第七十六条三)が企業にも適用可能か、地方公共団体内での審議に延々と時間がかかるそうだ。その上、地方公共団体には個人情報保護条例があり、そちらもクリアすることが求められる。

AIによる診断。内視鏡検査・眼底検査など画像から病気を診断するAI技術が多く開発されている。それでは、AIは本当に「診断」できるのか。医師法第二十条「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、…してはならない。」があるので、AI補助的役割に留まるしかない。米国FDAはAI診断装置をすでに認可しているが、わが国ではAIはあくまでも補助手段である。

冒頭に書いたように、未病・予防は医療費の適正化に役立ち、それに貢献するビジネスには多くの可能性がある。この観点から、ヘルスケア分野の規制を大幅に見直す必要がある。

次回のICPFセミナーは「医療分野に挑戦するスタートアップ企業」と題して11月1日に開催する。

もともと健康・医療分野は大学での研究やベンチャーによるトライ&エラーの役割が大きく、投資家の注目が高いだけでなく、外部の知的資産を取り込もうとする高い意欲を既存企業も持っている。しかし、日本の健康・医療分野には閉鎖性と固有の参入障壁が存在するために、医薬品開発や治療技術を除くと、新しいヘルスケアサービスを生み出そうとするITスタートアップは限定的であり、既存企業は参入機会となるコラボレーション先を国内にはなかなか見つけられない状態にある。このような環境を承知のうえで挑戦するスタートアップ企業から話を聞く。皆様ご参加ください。