前回は、公共インフラの民営化が日本で本格化しつつあることと、その背景を解説した。今回はより具体的に、インフラを所有する政府、運営を受託する企業、そして投資家(コンセッションの場合)の3者にとって、民営化がどういうメリットをもたらすのか考えたい。
費用も効果も大幅に改善
公共インフラの民営化には、最近ブームのコンセッション(公共施設運営権)のほか、部分委託、包括委託、指定管理者制度、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)、そして株式会社化などの手法がある。
このうち指定管理者制度は発足から15年がたち、成果が明らかになりつつある。筆者が概観したところ、おしなべてコストは2~3割、苦情は3~5割減り、イベントや施設の運営では来場者数が3~5割は伸びるケースが多い。
指定管理者制度の導入当初は、「公務員の高い人件費を民間の非常勤職員の報酬に置き換えるから安上がりになる」とその効果を短絡的に理解する向きが多かった。だが最近は作業手順の合理化や集客・増収に向けた民間らしい創意工夫の効果も出てきた。収益改善にコスト削減は必須だが、それを超える成果を出すにはサービスやコンテンツの価値を増し、施設稼働率を上げ、リピーターを増やし、客単価を上げる。つまりアップサイドの効果が大きい。
例えば本連載第185回で紹介した大阪城公園の指定管理者制度の場合、かつて大阪市は年間約4000万円の維持費を負担していた。ところが20年間の計画で民間に委ねた後は、彼らが駐車場、レストラン、売店のほか、トラムや歴史文化イベントなどに約50億円もの投資をした。その結果、来場者、収入が大幅に増え、3年後には大阪市に2億円弱の収入をもたらしている。
指定管理者制度に次いで注目したいのは、数年前から始まったコンセッションである。コンセッションでは、事業費が数百億円規模の案件が多く、中には関西空港と伊丹空港のように1兆円を超える例もある。運営を受託する企業にとっても、そこに投融資する企業にとっても、リスクもリターンも大きい。だが空港、下水道、アリーナ、有料道路などで導入が進んでいる。
コンセッションでは、導入時に収支改善の期待効果がバリューフォーマネーとして計算され契約金額に反映される。発注側と受託側の双方が納得をした上での契約だからメリットは明確だ。しかし長期にわたる契約であり、始まったばかりの国内事例の成果の検証はこれからだ。
かつての民営化推進とは異なる背景
さて、このように公共インフラの民営化が拡大する背景には何があるのだろうか。世界のトレンドに沿った政府の意向が働いているのは間違いないが、それだけでは企業も自治体も動かない。現場の具体的事情としては、第一に公的インフラを担う現場部局、例えば下水道局や道路公社の都合がある。これら現場部局はかつて民営化反対の急先鋒だった。労働組合が高賃金と雇用を守るために政治力を駆使して反発した。国鉄改革はその典型と言えよう。
だが、こうした状況は近年激変した。現場では団塊の世代の退職が続く一方で若手の技術人材が不足し、財政も余裕がない。そんな中でどんどん老朽化する設備の更新に対応しなければならない。人も金も足りない中、各地で効率的な事業経験のノウハウを積んできた企業に、運営や場合によっては更新まで任せようという流れが生まれつつある。
第二に民間企業の動きである。例えばフランスのヴァンシやヴェオリアなどの公共インフラの運営受託企業は、これまで培ったノウハウを各地で生かしてビジネスを成長させたいと考える。さらに機材を納入していた企業も運営受託に参入し、業態を高度化させたい。
第三に投資家だが、これまでは低収益でかつ長期に資金を寝かさなければいけない公共インフラへの投資にはあまり興味がなかった。だが近年は世界的な金余りに加えて、有望な投資先が減っている。リーマンショックのような株価乱高下にも直面しており、安定的な投資先をポートフォリオの中に組み込みたい。そんな中、上下水道や道路、空港などの公共インフラは長期安定の投資対象として新たな価値が見いだされている。
以上3つの事情を総合すると、公共インフラの民営化を巡っては政府、受託企業、投資家の3者間に共存共栄のWin-Win-Win関係が成立しつつあると言えよう。
編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏(大阪府市特別顧問、愛知県政策顧問)のブログ、2018年10月25日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。