中小小売店が支払うクレジットカードの手数料を3%台に抑えるように、政府が要請している。政府が消費増税対策としてキャッシュレス決済に対して2%のポイントを付与することの一環で、消費者がポイント還元を受けられる場所を増やすための施策だ。
これまで中小小売店は、クレジットカードの手数料が高いことがクレジットカード導入の一つの壁となっていたが、手数料を下げてこれらのお店も容易に加盟店になれるようにしようとしているのだ。
しかし報道によれば、この要請に対してクレジットカード会社は、中小の基準をどこに置くか、また仮に中小と大手の線引きができたとしてシステム改編が間に合うかなどの問題を列挙して強く反発している。
これから来年10月までの限られた時間の中で、政府とクレジットカード会社の間の話し合いがどのような決着を迎えるのか大変興味深いが、前回の記事でも述べたように、クレジットカードの手数料に関しては、イシュアー(カード発行会社)、アクワイアラー(加盟店開拓・管理会社))、国際ブランド(VISA、MASTERなど)と、関係者が多く、これらの間の利害調整が容易でない。
また、手数料引き下げを強引に行うことは、民間企業の契約内容に政府が直接手を突っ込むとの批判もあって、なかなか難しいところだ。
私は、政府がどうしても手数料を3%台に引き下げたいというのであれば、EUがしたように独禁法を使って、イシュアーが徴収するインターチェンジフィーを抑制するしかないと思っている。EUは、インターチェンジフィーが国際ブランドとイシュアーによって一方的に設定されて消費者の利益を損なっており、EC条約違反であると言って、インターチェンジフィーをクレジットカードは0.3%以下に、デビットカードは0.2%以下に抑え込んだ。
また、オーストラリアやカナダでも同様の理由でインターチェンジフィーを引き下げさせているのだから、日本でもできないことはない。しかし他方で、この措置には相応の「副作用」が伴っていることに注意が必要だ。インターチェンジフィーを大幅に削減することを余儀なくされたイシュアーは、大きな収益源を失うこととなり、カード年会費の引き上げやポイント還元率の引き下げをせざるを得なくなるからだ。
実際、EUでこの規制が適用されるようになった2015年以降、ヨーロッパでは多くのクレジットカードについてポイントが廃止された。だから今ヨーロッパのクレジットカードの優位性比較サイトを見ても、初年度会費や通常年会費等の比較はあってもポイント還元率の比較はない。
仮に日本でもインターチェンジフィー(経産省の資料では2.3%と例示されている)が大幅に削減され、その影響でマイレージがなくなれば、ポイントやマイレージを貯めるのを楽しみにしている消費者にとってはショックなことだ。
しかし、もともと日本のイシュアーは、消費者に自社のカードを使ってもらってインターチェンジフィーを得るために、少々無理をして高い還元率のポイントを付与しているように見受けられる。
インターチェンジフィーが2.3%で、イシュアーがカード決済100円ごとに1ポイント(1円相当)を付与しているとしたら、イシュアーの手元には1.3%しか残らない。イシュアーはこの収益とカード年会費(最近は年会費無料というカードも出てきている)で、システムの維持費やカード債権管理費、広告宣伝費、セキュリティ対策費など高額の経費を賄わなければならないのだから、収益的にはかなり厳しい数字だ。
確かに、3~5%といった高いポイント還元をしているカード会社もあるが、これは自社のスーパーマーケットやネットのモール、あるいは自社の携帯をもっと使ってもらうために、会社のビジネス全体の損得勘定をした上で、販促費という観点から高い還元率を設定しているのだと思われる。2.3%のインターチェンジフィーの部分だけで損得を考えると、これらの会社はポイントの出血サービスをしていることになる。
なお、アメリカでもクレジットカード支払いに対して、ポイントやマイレージが相当大盤振る舞いされているが、これはアメリカではクレジットカードの支払いに占めるリボ払いの比率が極めて高く、かつリボ払いの金利が、カードホルダーの信用度にもよるが、日本の利息制限法も真っ青になるような高い金利をとっているので、イシュアーの収益の中のインターチェンジフィーの重みが日本よりずっと軽いからだ。
日本ではリボ払いは最近徐々に増えて来つつあるものの、まだ圧倒的に一回払いが多いためイシュアーの収益はインターチェンジフィーに依存せざるを得ない。
このようにイシュアー側の厳しい財政事情があるので、中小小売店のクレジットカードの手数料引き下げをするのであれば、現状のポイント還元率は維持できないことを覚悟したうえで行う必要がある。クレジットカードの手数料引下げとポイント還元率の維持は、トレードオフ(二者択一)の関係にあるのだ。