スペイン・カタルーニャで独立を訴えて州政府が独立を問う違法住民投票を昨年10月1日に実施してから1年が経過した。それを記念して、独立支持派3政党と独立を支持する市民は集会を開いて改めて独立への道を訴えた。
住民投票が「違法」だったというのは、スペイン憲法で自治州が独立に関係した行動を取ることはスペイン憲法で禁止されているからである。その前の9月には州議会で独立の為の法案を独立支持派3政党が過半数の議席を利用して批准させた。
その結果、プッチェモン(当時)州知事は反逆罪に問われ、それを逃れてベルギーに今も逃亡中。そして彼は今、「遠隔操作」のごとくキム・トッラ現州知事に指示を与えているという具合だ。。他の州政府前閣僚は現在も拘束されており、彼らの解放を求める運動も盛んに行われている。
しかし、その後の独立への進展はなく、州政府の全ての行政レベルにおいてイニシアティブが不足し、しかも期待していた欧州連合からの支持も得らないということで、「もう州政府には誰も期待していない」と発言がカタルーニャで重要な都市の女性市長が匿名で行ったことが『El País』(9月30日付)で報じられた。
そもそも独立しようとしたことに無理があったということ。独立には経済的な基盤が必要であり、また大勢の市民が独立に賛成していることが独立する為の最低限の条件である。ところが、カタルーニャの場合は州民の半数が独立に反対しているのである。
スペインで民主政治を施行されてから実施されたカタルーニャでの選挙で独立反対派が得た票数は独立支持派の票数を常に上回っている。それが逆になったことは一度もない。ところが、現行の選挙制度では独立支持派政党に有利な議席の割り振りになっていることから独立支持派が常に議席総数において独立反対政党の議席数を上回っている。
独立するには大勢の市民からの支持が必要であるのに加え、問題は独立を支える為の経済的基盤が備わっているか否かということである。その前例をカナダのケベック州に見ることができる。ケベックは1980年代に独立を盛んに訴えていた。それから30余り年経過した今、金融機関を始め多くの企業がケベックを去り、その首府のモントリオールの経済の発展は同規模の他都市に比べ遅れているという。
それと同じようなことがバルセロナで起きる前兆が既に見られるようになっている。それを明確に示しているのが、この1年でカタルーニャから多くの企業が去っているということと、外国からの投資が減少しているということである。
スペイン経済電子紙『LIBREMERCADO』(10月2日付)が「BBVA Research」、「スペイン商業・産業・観光省」そして「Informa D&B」からの報告を掲載している。それを以下に紹介する。
スペインの最大銀行のひとつBBVAの調査組織「BBVA Research」によると、2017年のカタルーニャのGDPは3%であったのが、今年は2%にまで後退するであろうと下方修正しているそうだ。
「商業・産業・観光省」によると、外国からスペインへの今年上半期の投資は119億6900万ユーロ(1兆5560億円)で、前年同期比1.3%の増加に対し、それをカタルーニャだけで見ると41%の減少になっているという。政情不安なカタルーニャに外国企業が投資することを避けているということになる。その一方で、マドリードへの投資は昨年比43.6%の増加。
「Informa D&B」はこれまで3850社がカタルーニャから本社を他の州に移転したと報告。その61%の企業が移転先としてマドリード州を選らんだ。この移転した企業の売上総額は830億ユーロ(10兆7900億円)となるそうだ。それはカタルーニャのGDPの減少を意味するものとなる。
更に、同電子紙は以下の内容を報じている。
今年上半期にカタルーニャで誕生した企業は9915社で、前年同期の10959社と比較して9.5%の減少を指摘。
今年上半期にカタルーニャでの企業の倒産件数は30%上昇。
昨年10月からカタルーニャでの雇用者数が4万人減少。
スペインにとって重要な観光者のカタルーニャへの訪問が今年7月までで昨年比3.2%の減少となり、それは40万人の訪問者減になるそうだ。一方のマドリードは6.8%、バレンシアは4.2%、アンダルシア1.5%とそれぞれ増加している。
スペイン紙『La Razón』(10月1日付)は、既に上述してはいるが、カタルーニャから企業が脱出したことについて、カタルーニャ企業連盟の会長ジュセップ・ボウが脱出した企業の売上総額を1000億ユーロ(13兆円)だとし、それはカタルーニャGDPの48.75%に相当すると述べたことを報じた。
更に、同紙は今年に入ってマドリード州のGDP19.1%がカタルーニャ州18.9%を上回ったことを指摘した。これまで、カタルーニャがマドリードをいつも上回っていた。
カタルーニャのある企業家が同紙に「我々は生まれたこの地で捕虜になっているように感じさせられている」と語ってカタルーニャの厳しい現状を伝えた。というのも、独立支持派の市民が独立に反対している多くの企業に正常な企業経営を邪魔して、いやがらせなどしているからである。特に、中小企業や零細企業はカタルーニャから他の州に移転することは資金面などからできない。カタルーニャに留まるしかないのである。
スペイン経済紙(電子版)『Expansión』(10月2日付)は昨年10月からカタルーニャから流出した資金は294億6700ユーロ(3兆6700億円)になるスペイン国立銀行が発表したことを報じた。これはカタルーニャへの信頼度の喪失である。
カタルーニャのカタルーニャ・ヨーロッパ民主党のキム・トッラ州知事はベルギーにいるプッチェモンの指示で動いているだけ。独立支持政党3党を一つにまとめるだけの能力もない。彼の頭にはカタルーニャを共和国にするだけしか目的を持っていない。
その為に、カタルーニャ共和国委員会の暴力的な行為も認め奨励しているという民主国家の州政府の指導者としてあるべきでない姿も見せている。だから、カタルーニャ独立の為の2大政党の一つで冷静に独立への展開を進めて行きたいと望んでいるカタルーニャ左派共和党との連携も次第に崩れつつある。