無視でも報復でもなく、文大統領や韓国政府の叡智に待つべし

早川 忠孝

日本政府に強力な対抗措置なり相応の報復措置を講じるよう求める声が湧き起こっているが、心情的には分からないでもないが、ここはあえて冷静に対処することを求めたい。ヒステリックに国交の断絶を求める声まで一部で上がっているようだが、大方の国民はそこまでは求めていない。

韓国大統領府サイトより:編集部

これで韓国嫌いの人が増えるだろうが、日本に韓国嫌いの人が増えて困るのはもっぱら韓国政府や韓国の経済人だろうから、ここは韓国政府の対応を見守っては如何だろうか。

韓国の大法院が件のような判決を出すことは、分かっていたはずである。

すべて予想の範囲内なので、徒に嫌韓感情を煽ったり、厳しい対抗措置の発動を求めたりしない方がいい。

司法文化が国によって違う、という事実は認めておいた方がいいだろう。
日本の常識が必ずしも世界の常識でないように、韓国の司法判断がそのまま世界に通用するものでもない。法の当て嵌めは国によっても違うだろうし、裁判所や裁判官によっても違う。

世界共通の国際法が確立し、確立した国際法に基づいてあらゆる法的紛争を解決する国際司法裁判所があれば、最終的な司法判断はその国際司法裁判所に委ねればいいと思うが、現実にあるのはしばしば機能不全に陥りやすい、制度としても不完全な国際司法裁判所なので、どうしてもこういうことが起こってしまう。

勿論、日本政府として韓国の大法院が出した今回の判決に対して遺憾の意を表明するのは当然だが、だからと言って韓国の司法判断を日本政府の力で覆すようなことは出来ない。

まずは、韓国政府がどのような対応をするかを見守ってから、じっくり日本側の対処策を検討するくらいの余裕を見せた方がいい、というのが私の考えである。

多分、韓国の司法界や産業界でも色々な声が上がるはずである。

まあ、私自身は経済断交ということになっても些かも支障はないが…。

未来志向の日韓関係を築いていくために、韓国政府や韓国の国会議員が出来ることはありそうだ

韓国国会(Wikipedia:編集部)

日本の企業が韓国から出ていくことや日本との経済的、政治的断交を韓国政府や韓国の一般の方々が望んでいるとは毛頭思っていない。

しかし、今回の韓国大法院の判決によって、徴用工賠償請求のターゲットとなっている日本企業の韓国からの撤退を当然視する声が日本国内で広がっていくかも知れない。

私が見ている範囲では、今回の大法院判決を支持する声は日本国内では上がっていない。
むしろ日本企業の韓国からの撤退や経済制裁を求める声ばかりで、このままでは日本における嫌韓感情、反韓感情は燃え上がる一方である。

日韓関係が大きな曲がり角を迎えていることは否定できないだろう。

日本の一企業と特定個人との間の個別紛争であれば、当該企業と当該個人との間で話し合いで決着すればいいが、ことは日韓基本条約の法的有効性や当該条約に定める「請求権」の適用範囲、さらには請求権の消滅時効の援用の可否という他の同種の案件にも適用される普遍的な法解釈を明示しているので、件の事件だけ決着させてみても、紛争自体は解決しない。

日本と韓国の間に大きな亀裂をもたらすような重大な判断が大法院から下された、ということだ。
日本政府が韓国の司法判断に容喙することは慎むべきではあるが、現在の事態を漫然と放置することも出来ない。

日本政府が出来ることは何もないが、韓国政府はあらゆる知恵を駆使して、これ以上日韓関係が悪化しないように手を打つべきである。

大法院の判決を韓国政府が覆すことが出来ないのは当然だが、新たな立法措置を講じることで徴用工の賠償請求権を合理的範囲内に減縮する程度のことは出来るかも知れない。
勿論、韓国の世論の支えと韓国の国会議員の協力なくしては出来ないことではあるが…。

未来志向の日韓関係の構築を目指すのならば、これまで比較的良好に保ってきたと思われる日韓関係の崩壊を、あらゆる方策を動員して防ぐべきである。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2018年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。