アゴラでもおなじみの音喜多駿都議(北区選出)と柳ヶ瀬裕文都議(大田区選出)がきのう10月31日、都議会で新会派「維新・あたらしい・無所属の会」を結成したことを明らかにした。音喜多氏は、上田令子都議(江戸川区選出)との会派解消により、孤立無援になるかに思われたが、この急展開は筆者もさすがに予期できず、驚いてしまった。
きのうは所用で出かけており、報道に気づいたのは深夜。慌てて両氏に直接取材したところ、会派を具体的に組む話は今週月曜(29日)のことで、わずか2日間での電撃発表にこぎつけたとしている。もちろん額面どおりに受け取れない部分はあるものの、柳ヶ瀬氏が「信頼できる人間と組みたかった」と強調していたように、以前から党派を超えて親しかったのは確かだ。
年の差は9つ、柳ヶ瀬氏は維新に所属し、音喜多氏は地域政党を率いる身ではあるが、行政改革などで政策理念は近い。「海城中学・高校 → 早稲田大学」の先輩後輩という間柄でもある。筆者も2人とは何年もの付き合いになるが、都政の重大局面の折々にフラットに相談をしている節は感じていた。
ただ、それなりに存じているだけに、筆者が急展開以上に驚いたのは、柳ヶ瀬氏の所属する維新サイドが、音喜多氏と組むことを許容したことだ。実際、柳ヶ瀬氏には維新内部から「お叱りの声が届いている」という。しかも会派を組む話が具体化したのが、音喜多夫婦の週刊誌報道が出た後となれば、党内で波紋も広がっても当然だ。
会派名に隠れた政局的な意図
このあたりは、2人会派として議会での発言機会の確保など政治的実利をとる意味もあるだろう。が、それ以上に見逃せないのは、柳ヶ瀬氏はリスクをとってのリターン狙い、つまり政局的な狙いがうかがえるところだ。突然の会派結成について、産経や日経などは淡々と事実だけを報じているが、東京新聞の梅野光春記者は「裏の狙い」に気づいている。
上記動画の終盤(11分42秒〜)で梅野記者が会派名の最後に、柳ヶ瀬氏と音喜多氏のそれぞれの所属政党名以外に加えて「無所属」が、なぜ記載されているのか質問している。
柳ヶ瀬氏は待ち構えていたように、梅野記者に「いい質問を聞いてくださった」と御礼を述べた上で、「広く改革勢力を結集したい」という抱負を述べると、想定している仲間として「都議会の中で改革をしたいという思いがありながらも現状に忸怩たる思いを持っている方もいるのかな」とも付け加えた。
具体的な党名こそ言ってないものの、柳ヶ瀬氏が、内部亀裂が深まる都民ファーストの会を念頭に置いているのは明らかだろう。
さらに別の記者からは、音喜多氏に都民ファーストの会の所属議員との接触の有無をズバリ聞く質問が飛んだ。音喜多氏は「具体的な話は承知していない」と述べたが、筆者が別方面で取材してきた限りは、以前書いたように、都ファ分裂に向けた調略の第1ルートとして音喜多氏が動いているようだ。
ただし、この第1ルートについては都政関係者たちの中で「現実味がない」などと評価は高くなかった。しかし柳ヶ瀬氏とタッグになったことで、都ファからすれば、維新の会の「後ろ盾」があるのは気味が悪いだろう。もちろん東京都内で維新のプレゼンスはお世辞にも高いとは言えないが、国政政党との繋がりが全くないのとでは調略に重みが違ってくる。
「今は2人だが、行く末は最大会派になる」という柳ヶ瀬氏の言葉に、動画からは会見場の苦笑も漏れ聞こえたが、年明けの統一地方選、あるいは夏の参院選までの政治日程を睨みながら、奇跡的な再編劇を思い描いている意欲は感じ取れる。
さて都ファ内紛の近況はどうか。前回筆者が記事を書いたのは、都政新報が都政記者クラブのメディアで初めて報道した翌日の10月17日。それから半月、都議会は第3回定例会の日程の多くを消化して「凪」に入ったように見える。しかし都政関係者によると、都ファの離党を強く考えていた新人都議らへの慰留圧力は相当強まっており、自民や立憲民主との水面下の綱引きは熾烈さを増している。
そうした中で、突如結成された「音喜多&柳ヶ瀬」コンビの動向は、調略ルートとして存在感を発揮するのか。晩秋の都議会政局は、妖しい光がさしたように先が見えなくなりつつある。