今月8日からアゴラだけが報じ続けてきた都民ファーストの会の内紛。ついに都政新報がきのう16日の朝刊一面トップで報じた。都庁記者クラブの加盟社としては初めて。きのうの拙稿で「取材の影を感じる」と書いたのは同紙のことだ。
紙面では、品川区長選で、都ファが推進していた羽田新ルート撤回を主張する候補者を推薦した矛盾などについて、新人都議らがブログで執行部を批判したり、所属都議同士がツイッター上でバトルになった経緯を紹介。このあたりは筆者は既報だが、さすが都政の専門紙。興味深い新事実も浮き彫りにしており、その読み解きは最後に詳述する。
議員総会の「茶番劇」
さて、きのうの焦点は何と言っても「山場」とみられた議員総会だった。都議会庁舎内で当初開催予定だったのを、近隣のNSビルに急きょ変更したのは、マスコミ対策の狙いとみられる。庁舎内の会議室は記者たちが「壁耳」をして中身が漏れる恐れがある。NSビルの会議室は廊下との間にスペースを挟んでおり、音漏れを防ぐ構造になっている。
総会は午後3時から2時間近く開催。筆者も途中から現地を訪れたが、終了後、動向が注目される3人の新人都議、奥澤高広氏(町田市選出)、森澤恭子氏(品川区選出)、斉藤礼伊奈氏(多摩市・稲城市選出)は、報道陣の取材に応じず沈黙したまま会場を去った。
総会では何があったのか。複数の関係者によれば、内紛の火種となった品川区長選を巡る対応について、3人の都議らは事実関係をあらためて問いただし、執行部側から説明がなされた。
森澤氏はすでにブログで羽田ルートを巡る公約矛盾や、地元の区長選でありながら候補者の推薦が決定後に「他党の関係者からの第一報で知った」と述べるなど、執行部の選挙準備を厳しく追及している。
この日、小池知事は出席せず、メッセージの代読もなかったようだが、代表の荒木千陽氏(中野区選出)が一連の対応について陳謝。また、選対責任者を務める木村基成氏(世田谷区選出)が辞任を申し出て執行部が止めに入る一幕もあったという。しかし、3人の目には“茶番劇”と映ったのではないか。出席者の一人は「3人はもう執行部には何を言っても無駄だと半ば諦めているようだ」と漏らした。
執行部の不手際で最も怒りを買ったこと
奥澤氏は筆者の取材に対し「ノーコメント」と応じなかったが、複数の都政関係者によると、奥澤氏がもっとも怒りを覚えているのは、候補者擁立などの意思決定に関する情報がブラックボックスであるだけでなく、事前に公明党との選挙調整に関して「事実と異なる」説明があった点だ。
都政新報では、品川区長選の際に都ファと公明党との間で何も調整がなされていなかったことが指摘されている。ところが議員たちには、調整が行われているかのように事前に伝えられていたというのだ。もしこれが事実であれば、執行部側は、所属議員を選出した有権者に対しても「ウソ」をついたと非難されても仕方ない。ウソは言い過ぎだとしても、「事前に公明と調整済み」であるかのように受け取れる説明がなされていたからこそ、奥澤氏らの怒りが収まらないわけだ。
いずれにせよ、執行部側のガバナンスがずさんだった疑いが強い。昨年離党した音喜多駿都議が著書『贖罪』でも明らかにしていた問題点は、なんら改善されていなかったようだ。
なお、都ファと公明の関係をおさらいすると、昨年の都議選では共闘も、小池知事が衆院選で国政関与の動きを見せたことで表向きは「連立」は解消した。しかし選挙区によっては公明推薦で当選した都ファの議員が多いことの重みは残っている。
3人のうち奥澤氏と森澤氏は公明の推薦を受けていないが、斉藤氏は定数2の選挙区で公明から推薦を受けている。斉藤氏は、給食無料化を進めた党の対応を批判したブログにおいて、公明党が議会で反対討論だったにもかかわらず、「流石の一言でした」「論理的、かつ、明快です」などと持ち上げている。
ほかにも地元選挙区での公明党との関係については現在も配慮せざるを得ない議員も多い。こうした政治的アライアンスの複雑さを軽視し、品川区長選でちぐはぐな候補者擁立をみせたのも、事実上の党のリーダーである小池氏や現執行部の手落ちといえる。
小池氏と野田氏の距離感は明らか
こうしてみると、公明との調整がおろそかになった点からしても、小池知事の特別秘書の1人、野田数氏が最近は遠ざけられているという見方は現実味を帯びてくる。野田氏は自民・公明側とのパイプ役だからだ。また、これは都政新報でさりげなく書かれているが、自民への引き抜きの噂が出た都議の意思確認に、もう1人の特別秘書、宮地美陽子氏が任されたという話に目が止まった。
宮地氏は読売新聞時代は筆者の同期(もう十数年、音信不通)。夫は元産経新聞の政治部記者だが、本人は政治部経験はない。彼女には申し訳ないが、選挙の洗礼を通過してきた議員たちを引き止めるだけの力量があるか未知数だ。都議経験のある野田氏のほうが本来は慰留工作には適任のはずで、そうした「人材不足」の露呈にも、現在の小池知事と野田氏に距離があることがうかがえる。
同時に論理的に考えれば、野田氏が「謀反」を起こし、反執行部の都議たちと蜂起する余地が小さくないことになる。調略ルートで本命視されているように、自民党とのパイプを生かし、なんらかの動きを見せうる立場にあるのだ。ただ、そのシナリオは、自民党側が野田氏との間の都知事選以降の確執を乗り越えられるかもポイントにはなる。
きのうの総会では、たしかに離党者は出なかった。しかし遠心力の止まらない都ファの内情を知る党内外の関係者たちの間では、亀裂が深まっていることで認識は一致している。都政新報に続き、読売や朝日なども報じるような展開になるのか。分裂は亀裂なしに始まることはない。