日銀が異次元緩和と呼ばれた量的・質的緩和を決定したのが2013年4月。あれから5年と半年が経過した。当初、2年で2%の物価目標を達成するとしていたが、物価は目標には届かず、日銀の異次元緩和はさらに踏み込み、長短金利操作付き量的・質的緩和となって現在にいたる。しかし、日銀の物価目標となっている消費者物価指数(除く生鮮食料品)の前年比は直近発表の9月分で前年比プラス1.0%と2%にはまだ距離がある。
大胆な緩和策を5年続け、マイナス金利や長期金利コントロールまで加えたこともあり、金融機関の収益悪化や債券市場の機能低下などの副作用の懸念も強まってきている。
海外をみてみるとFRBはいち早く大規模な緩和策からの脱却を目指し、正常化に向けて着々と歩みを進めている。イングランド銀行も歩みは遅いながらも正常化に向けた動きとなっている。ECBは年内にも新規の資産買入を停止する見込みで、来年には利上げも視野に入れつつある。
このようななか、日銀は2%という絶対的な物価目標を置いてしまったことで、景気そのものの拡大基調は継続しても、身動きが取れない状況となっている。しかし、そろそろ日銀は物価目標を長期的な目標とすることで、より柔軟な政策に方向転換すべきかと思われる。
雇用については9月の有効求人倍率が1974年1月以来の高水準となり、この好環境はまた継続するとみられている。賃金がなかなか上がらず、これも物価が上がらない要因となっているが、雇用の回復を阻害しない程度に、異次元緩和の修正は進められないものであろうか。
たとえば、現在の日銀の保有資産はすでに名目GDPを上回っている。この量による効果から異次元の緩和効果を維持させることをアピールする。マイナス金利政策を止めて短期金利もプラスとし、短期金融市場を活性化させる。さらに長期金利のコントロールも止めることで債券市場の機能も回復させ、金利が動くことによって企業の設備投資などにも刺激を与える。
これは緩和策からの後退ではなく、大規模な緩和効果は維持しつつ、金利がファンダメンタルに応じた動きに戻すことが目的とする。利上げは当面行うことはないと強調し、正常化という表現には距離を置くことで、外為市場などでの急激な円高などを防ぐ。
これでもかなり市場の動意を抑えるのは難しいかもしれない。これは実質的に出口政策にほかならないものの、そのあたりは強調せずに押し進める必要もあろう。そろそろ、このような異次元緩和の修正シミュレーションを実行に移すタイミングではないかと考える。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。