<税を追う>米国製優先、飛べぬ国産 整備部品足りず自転車操業【東京新聞】
この<税を追う>の特集は実はぼくが入れ知恵をしております。この回の取材も、その成果が出ているようです。
安倍政権で急拡大した米国製兵器の導入により、戦闘機など五種の兵器だけでも、向こう二十~三十年間の維持整備費が二兆七千億円を超える防衛省の試算が明らかになった。そのあおりで国産を中心に、米国政府の対外有償軍事援助(FMS)以外で調達した兵器の維持整備費にしわ寄せが来ている。主力戦闘機ですら故障部品の修理が進まず、稼働率は大幅に低下。現場の自衛隊では、国産兵器の運用に危機感が広がっている。 (「税を追う」取材班)
「航空自衛隊の維持整備は現状でも部品不足が累積し、借金まみれのような状態だ」。昨年八月まで空自の補給本部長を務めた尾上定正氏は、現場の窮状を厳しい表情で明かした。
F15ですら部品の在庫が乏しく、すぐに修理・整備できないケースが相次ぐ。仕方なく、整備中のもう一機の部品を流用する「共食い整備」でやりくりしているという。
「部品を流用された機体は飛べなくなるから、F15の稼働率は大幅に落ちている」と尾上氏。優先度の低い整備は後回しになりがちなため、将来のパイロットの育成に使う練習機「T4」などは、故障すると倉庫に置かれたままにされるのが現状だ。
空自がFMSで導入する最新鋭戦闘機「F35A」で既に配備されたのは九機。将来的に計四十二機に増える。「F35Aが増えるほど、それ以外の維持整備費は圧迫される。極端に言えば、F35A以外の空自の飛行機は動かなくなる」と尾上氏は懸念する。
危機感は自衛隊全体に広がる。「自転車操業で運用上の問題は生じていないのか」。昨年十二月に防衛省で開かれた調達審議会で、有識者の一人が海上自衛隊の国産の哨戒ヘリコプター「SH60K」でも、いわゆる共食い整備が行われていると実態を取り上げた。
「運用に影響を及ぼしている部隊もある」。当事者の防衛省側がそう認めざるを得ないほど、共食い整備の影響は深刻化している。
ぼくは10年以上前から海自のP-3Cが共食い整備をしている実態を報じてきましたが、こういう稼働率の話が新聞で出るのは歓迎すべきことです。
ですが、メディアではいつも装備導入ばかりが話題になり、既存装備の稼働率、搭乗員の飛行時間や練度、弾薬の備蓄また新装備に関してもその稼働率などが話題になることはほとんどありませんでした。ですが納税者はこの問題にもっと敏感になるべきです。
せっかく新装備を入れても、その新装備も既存装備もろくに可動しなくなるのであれば、何のための装備導入かわからなくなります。それを税金の使い方の面からの報道が少なすぎます。オスプレイにしても、その導入がどれほど陸自航空隊の予算を圧迫し、陸自航空隊を弱体化させるかという議論も報道もなく、よく墜落する、危険だという情緒的な記事ばかりでした。ぼくがそういう質問を防衛省の記者会見でしても記者クラブの皆さんは無視してきました。
率直な話、現状自衛隊はとうちゃん、かあちゃんが子供の給食費や自分たちの食費もろくに払えず、ガス水道を止められることにビクビクしながら、ベンツかったり、エルメスのバーキンを買ったりしているようなものです。
ご案内のように海自にしても10年以上前からP-3Cですら共食い整備が常態化しているのに、わざわざ機体、エンジンまで専用という調達も維持費も高コストなP-1を、石破長官の反対を押し切って導入しました。
P-1調達単価は200億円、維持費もP-3Cよりもかなり高いでしょう。しかも調達単価が高いこともあり、かなりの数のP-3Cの延命化も必要となってプロジェクトの総費用はかなり膨らんでいるはずです。
当然、その分他の予算が圧迫されているはずです。それは整備費や訓練費用などに大きな影響を及ぼしているはずです。そりゃ、SH-60の運用予算の足りなくなるでしょう。
ですから、ぼくは当時からP-3Cの近代化を提案していたわけです。
であれば主翼を更新すれば飛行時間はゼロにリセットされます。システム、エンジンを換装し、グラスコックピットを導入すれば100億円ぐらいにはなるでしょうが、燃費や整備コストは向上します。また訓練や支援機材は既存のものを流用できるので新規に導入する必要はありません。これまた運用コストの低減になります。
空自にしても前回のブログでもご案内のように「官製談合」の疑いが濃い、UH-60J改の調達があります。23.75億円で調達する予定が50億円約2倍です。既存機のUH-60Jが約45億円ですから始めから嘘をついて導入したのでしょう。そうでなければ空幕は上から下までアレな人たちの集まりだった、ということになります。
LCCは大抵機体コストの2倍程度とされていますから、LCC総額も1900億円から3800億円になるでしょう。つまり1900億円は余計なカネがかかっています。
空自は初等練習機も安くて性能の良いスイス製を無理やり排除して高くて古くて値段の高いスバル製のものを導入しました。
その上F-35Aもわざわざ何のメリットもない国内組立をして、自分でコストを釣り上げて調達しています。まさに自分の首を自分で締めているわけで、空幕には中国のスパイが蔓延し、空自の弱体化を図っているではないかと疑いたくなるレベルです。
こういう準禁治産者みたいなことをしているから、肝心要の防空を担う戦闘機すら共食い整備をしている羽目になっています。同様に以前は200時間ほどだった飛行時間もかなり落ちています。
一番の問題はこういう由々しき事態になっても何の危機意識も持っていないことです。
更に申せば有事に際しても滑走路の補修機能、航空機のバンカーなども整備が遅れています。
戦闘機の整備予算を捻出するならば、例えば200機あるF-15Jで非近代化機体100機を退役させ、分品取り用にする。余剰になった搭乗員は既存の部隊に割り振って、1機あたりの搭乗員を増やす。そうであれば有事の際に全力で出動できたり、繰り返しの出撃では交代して出撃することも可能となり、稼働率の低い200機を運用するよりも高い即応力が得られるのではないでしょうか。
同様に能力が低く、維持費がF-15よりも高い96機のF-2も早期に退役させて、その分F-35を輸入で1~2個飛行隊分を導入する。余ったパイロットはこれまたF-35部隊に配備する。こうすれば、戦闘機の維持&調達コストを抑えることができるはずです。
あるいはアラート専用のコストの安い機体を導入するのも手でしょう。
いずれにしても既存装備の稼働率、乗員の練度、コンポーネントの在庫、弾薬などの備蓄などを考慮しない新装備導入はナンセンスです。
それを無視するのであれば自衛隊は軍隊よりも軍事博物館に近くなります。
■本日の市ヶ谷の噂■
海自が30FFM用に導入する国産RWSは海自による運用試験すらしていないのに導入が決定したとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。