企業を蝕む「第三者委員会」の“病理”:横行する「第三者委員会ビジネス」

第三者委員会は、本来、不祥事で信頼を失った組織に代わって、中立かつ独立の立場から事実調査・原因分析を行い、信頼を回復するために設置されるものである。過去に、多くの不祥事で設置され、組織をめぐる問題の真相や原因を明らかにすることに一定の役割を果たしてきた。

しかし、最近では、第三者委員会が、本来の目的に反する方向で利用される事例が少なからず生じている。会社執行部の意向を受け、監査法人による会計監査の妥当性や原発子会社の減損問題を調査対象から外し、問題の本質を隠蔽しようとする執行部に加担し、いわば「隠れ蓑」のような役割を果たした「東芝の第三者委員会」、直接的な証拠もなく、それを解明するための十分な調査も行っていないにもかかわらず、粗雑な推認によって依頼者に有利な事実認定を行った「東京電力の第三者委員会」などがその典型例である(【第三者委員会が果たすべき役割と世の中の「誤解」】)。

また、比較的小規模の上場企業では、経営陣と大株主との経営権をめぐる争いに第三者委員会を利用しようとした事例、第三者委員会が必要もなく設置され、その公表で株価が大幅に下落する事例なども発生している。

一方で、第三者委員会には調査補助者に多数の弁護士、公認会計士が動員され、委員も含めて「時間制」で報酬が算定されるため、費用が高額化することが多く、さながら「第三者委員会ビジネス化」の様相を呈している。企業規模に不相応な高額の費用請求によって株主に過大な不利益が生じかねないケースもある。

第三者委員会には、法的な根拠はないし、その事実認定・判断に、法的拘束力や事実確定力があるわけでもない。それにもかかわらず、その調査結果は、依頼企業のみならず、マスコミ等にも無批判に受け入れられ、監督官庁や証券取引所等もが、当該問題についての「事実認定」として尊重するのは、企業が自ら設置した中立かつ独立の第三者委員会の事実認定・判断を尊重することについての「社会的コンセンサス」が形成されているからである。

しかし、その「社会的コンセンサス」には、いくつかの前提が必要である。それは、正当な手続を経て、その目的が十分に理解された上で第三者委員会の「設置」が意思決定され、中立的かつ独立の第三者委員会に相応しい委員等の「人選」が行われ、適切に「調査」が行われたうえで「調査報告書」が作成されて、依頼企業に提出されるということである。また、不祥事企業がステークホルダーに対する説明責任を果たすために設置されるものであるから、その「公益的目的」を考えれば、委員会に関する費用や報酬にはおのずと限度があるはずだ。

第三者委員会をめぐる現状を見たとき、果たして、そのような前提条件が充たされているのか、疑問に思える例が少なくない。

そこで、第三者委員会について、①どのような場合に設置すべきか、それを、誰が、どのように判断・決定するのか、②委員長・委員の人選、調査体制(調査補助者の選定)は、誰がどのように決めるのか、③調査事項は、誰がどのようにして決定するのか、④調査を、どのような手段を用いてどのように行うのか、⑤調査報告書はどのように作成され、その内容が確定されるべきなのか、⑥委員長・委員、調査補助者の報酬等の第三者委員会に関して支払われる費用は、どのように算定されるべきなのか、などの問題について検討した上、第三者委員会の今後の在り方について私見を述べてみたい。

1 第三者委員会の設置の判断

(1)どのような場合に設置すべきなのか

第三者委員会が設置される典型例は、不祥事等によって、組織の業務執行・意思決定を行う経営陣等が、社会からの信頼を失ってしまった場合であり、既に不祥事が表面化し、それによって企業が社会から批判を受け、経営者に対しても責任追及の声が高まっているという状況である。最近の例で言えば、「品質データ改ざん問題」で厳しい社会的批判を受けた神戸製鋼所の事例などである。また、企業ではないが、文科省幹部への贈賄や入試をめぐる不正で学校法人のトップの犯罪、不正が社会から厳しく糾弾されていた東京医大で、第三者委員会が設置されたのも当然と言えよう。

しかし、問題が表面化しておらず、経営者に対する批判も生じていない場合には、第三者委員会の設置以外にも選択肢がある。

企業内で問題が発生した場合には、まず内部調査を行うのが原則である。内部調査の客観性を確保するために外部弁護士を調査メンバーに加えることもある。また、監査役の独自の調査権(会社法381条2項)に基づく調査という方法もある。監査役は、自ら調査を行うことができるし、その調査を外部弁護士に行わせて、その費用を会社に請求することもできる。

内部調査の場合、調査の実施や結果の公表は会社執行部の判断による。監査役の調査も、会社の機関として、独自に自らの責任で調査を行うものであり、その結果を監査役の権限行使に活用し、取締役会に報告することが目的である。社外監査役が外部弁護士に委託して調査を行った場合は、調査主体の「外部性」や「客観性」という面では第三者委員会の調査と実質的に変わらない。大きな違いは、調査開始の段階では公表せず、調査結果を踏まえて、問題の重大性やステークホルダーへの説明責任の程度に応じて公表の要否を判断することができる点である。

問題が表面化しておらず、企業が批判を受けているのでない場合、いきなり第三者委員会を設置して公表すれば、企業に重大なダメージが生じる。それでも敢えて、内部調査や監査役調査ではなく、第三者委員会を設置する必要があるとすれば、以下の2つの要件が充たされている場合である。

① 株主・投資家に対して開示すべき重大な問題が「判明」していること。

② 当該問題について、法的判断ではなく、調査でさらに事実を解明する必要があること。

①については、「株主・投資家に開示すべき重大な問題」があることが、既に明らかになっているのであれば、ただちに開示するのが当然である。問題は、そのような重大な事実があるか否かわからない段階で、それを判断するために第三者委員会を設置することの是非である。この場合、調査の結果、重大な事実が何もなかったということになると、結果的に、第三者委員会の設置は不要だったことになり、それによって生じた企業価値の棄損及びそれにかかったコストについて誰が責任を負うかが問題になる。

また、仮に①に該当する場合であっても、既に事実は明らかになっていて「法的判断」が求められているだけであれば、外部の弁護士に法的見解を求めれば済むので、委員会を設置して調査を行う必要はない。

(2)誰が設置を判断するのか

第三者委員会を設置すべきか否かは、企業であれば、業務を遂行する会社執行部、最終的には代表取締役が判断すべき事柄であるが、企業の経営に重大な影響を及ぼす事項なので、通常は、取締役会の決議を経て決定される。そこで、設置すべきか否かをめぐって、社外取締役、監査役等と経営陣との間で対立が生じる場合がある。

既に不祥事が表面化し、それによって企業が社会から批判を受け、経営者に対しても責任追及の声が高まっているという「典型事例」であれば、第三者委員会の設置は当然の判断と言えるが、経営陣が責任追及に発展することを恐れ、設置に消極的な姿勢になることもある。その場合には、直接的な責任追及の対象とはならない社外の取締役や監査役が、設置に向けて積極的な役割を果たすことを躊躇すべきではない。

しかし、問題が表面化していない場合は、第三者委員会の設置自体が企業に重大なダメージを生じるので、上記の「典型事例」の場合とは異なる。上記の①、②の要件を充たしているのか、設置公表で企業にいかなるダメージが生じるのかを勘案して判断する必要がある。第一次的な判断を会社執行部が行い、取締役会で決定する中で、第三者委員会の設置をするのか、内部調査、監査役調査等の他の方法を取ることができないかを、十分に議論する必要がある。第三者委員会を設置した場合には、重大な損害が生じ、その責任が問題になる可能性があるので、設置の決定に至るプロセスは明確にされる必要がある。

このような場面で問題となるのは、会計監査人の監査法人の関与である。不適切な会計処理や会計不正が明らかになった場合に、監査法人が会計不正の全体像を把握するため、第三者委員会の設置を要請するということは、ありうるケースである。

しかし、本来、会計監査人は、企業の会計処理の監査のために自ら必要な調査を行うことができる立場にあるのであり、会計面の問題があると考えるのであれば、自らの権限で調査を行うのが原則である。執行部を中心とする会社の機関が判断すべき第三者委員会の設置の判断に介入するというのは、本来、監査法人が行うべきことではない。

特に、問題が表面化していない場合には、設置自体が企業に重大なダメージを与えるのであるから、監査法人側が、「第三者委員会を設置しなければ監査意見を出さない」などと述べて設置を強要するようなことがあれば、それは、会計監査人としての権限の濫用である。

第三者委員会の設置をめぐる議論は、設置すべきとの意見が「正義」、設置への反対が「不正義」という単純な構図でとらえられやすいが、そのような単純化は危険である。第三者委員会の設置の是非についての検討や議論が不十分なまま、設置をめぐって役員同士が対立し、監査法人が介入したりすることで、混乱が拡大し、企業を深刻な事態に陥らせることになりかねない。

2 第三者委員会の委員長・委員の人選、調査体制の決定

第三者委員会の設置を決定するのが会社執行部である以上、委員長・委員の人選を行うのも会社執行部である。しかし、この点に関しては、いくつかの問題がある。

もともと、会社経営陣が自らの判断で第三者委員会の委員長・委員に適切な人物を選定することは困難である上、不祥事によって責任を問われかねない立場の会社経営陣が委員長・委員の人選に関わることは、第三者委員会の活動に疑念を生じさせる恐れがある。

そこで、顧問の弁護士や法律事務所が相談を受け、第三者委員会の委員等の選定に関わることがありうるが、会社との間で、訴訟の代理等を通して様々な利害関係がある顧問弁護士が委員等の人選に関わることは、第三者委員会の中立性・独立性という面で問題がないわけではない。

ここで重要なことは、第三者委員会の設置時や報告書の公表時など、第三者委員会について対外的な説明を行う際に、委員の選定について、どのような候補者の中から、どのような観点で行ったのかの説明責任が果たせるよう、適切なプロセスを経て決定することである。単に、「当社とは利害関係が全くない」というだけでは説明が十分とは言えない。

次に重要なのは、調査体制の決定である。第三者委員会の調査である以上、調査体制は、第三者委員会の設置後に、委員会が主導して決定すべきであることは言うまでもない。

第三者委員会が不祥事等についての事実調査を行うに当たって、調査補助者として、弁護士や公認会計士等を活用することが多い。この場合の、第三者委員会と実際に調査を実行するメンバーとの関係は、大きく分けて二通りが考えられる。

一つは、第三者委員会の委員長自らが中心となって調査を行うか、或いは、委員の一人を「調査担当」として指定し、その委員が中心となって、その下に調査チームを編成する方法である。私が関わった第三者委員会の中では、田辺三菱製薬のメドウェイ問題での特別調査委員会(2009年)は「委員長型」で、私が自ら調査を総括した。また、オリンパス監査検証委員会(2012年)では、「調査総括」として、弁護士チームによる調査を総括した。いずれの場合も、委員長、委員が調査を総括する立場なので、第三者委員会の責任と判断で調査が実行されることになる。

もう一つは、第三者委員会の外に調査体制を構築する方法である。私が関わった第三者委員会では、九州電力「やらせメール問題」第三者委員会が、その一つの例である。この問題では、玄海原発に関して、福島原発事故直後の再稼働に関して行われた「やらせメール」問題と、過去にプルサーマル導入をめぐる県民報告会で行われた「やらせ質問」等の問題という、いずれも九州電力が組織的に関与した「やらせ」問題が複数あり、その全貌を解明するため、それぞれについて、第三者委員会の外部に大規模な調査班を編成した。この場合、第三者委員会の責任者である委員長が、調査班の総括責任者と緊密な連絡をとり、調査状況を逐次把握し、指示を行う必要があることは言うまでもない。

問題は、「調査補助者」の選定である。本来、調査の主体は第三者委員会であり、第三者委員会が調査方針を決定し、必要に応じて調査補助者を選定し、委員会の方針に基づいて、調査補助者に具体的な調査を指示するということになるはずだが、顧問法律事務所主導で第三者委員会の設置が行われた場合などには、その関係が逆転する場合がある。

企業が、まず、顧問事務所に相談し、問題の性質上、第三者委員会を設置せざるを得ないと判断した場合に、顧問事務所が第三者委員会の委員の選任も含めて段取りを整え、顧問事務所の弁護士が調査補助者として調査に加わるような事例もある。

このようなやり方では、実質的に、企業と深い利害関係がある顧問事務所が主導して第三者委員会が設置されたことになり、中立性・独立性に疑念を生じることになる。

3 調査スコープ及び調査事項の決定

第三者委員会の調査事項については、依頼者の企業が第三者委員会に委嘱する事項がベースとなるが、それだけでは、発生した問題の根本原因や本質を明らかにするために十分ではなく、それ以外の事項を調査の対象にする、つまり、調査スコープを拡大すべきと判断することもあり得る。日弁連の第三者委員会ガイドラインでは、「第三者委員会は、企業等と協議の上、調査対象とする事実の範囲(調査スコープ)を 決定する」とされており、第三者委員会が主導権を持つべきとされている。

第三者委員会側の調査スコープを拡大することは、当該企業の経営に重大な影響を与える場合がある。それが典型的に表れたのが、2015年5月に設置された東芝の会計不祥事に関する第三者委員会であった。私は、同年7月に、その第三者委員会報告書が公表された後、様々な問題を指摘し、徹底批判していた(【「東芝不適切会計」第三者委員会報告書で深まる混迷】(プレジデントオンライン))。

東芝の第三者委員会の「枠組み」には根本的な疑問があり、意図的に問題の本質から目を背けようとしているとしか思えなかった。また、第三者委員会の報告書公表の直後に社長を辞任した田中久雄氏に代わって同社の社長に就任した室町正志氏は、会計不正の期間に取締役会長の地位にあったのに、社内に設置された特別調査委員会の委員長を務めただけでなく、第三者委員会報告書でも「関与がなかった」とされて責任追及を免れていた。

このような東芝の第三者委員会の内幕を暴露したのが、日経ビジネスによるスクープであった。同誌は、第三者委員会報告書公表以降、内部告発を募集するという異例の方法まで用いて東芝不正会計問題を徹底追及していたが、同年11月に、東芝が米国の原発子会社ウエスチングハウスでの巨額の減損を隠ぺいしていた事実を報道した。重要事実をいまだに隠ぺいしようとする東芝の姿勢は、他のマスコミにも厳しく批判され、東証が、開示基準違反を指摘するに至ったのに続き、同誌は、ネット記事で、【スクープ 東芝 減損隠し 第三者委と謀議 室町社長にもメール】と題する決定的な記事を配信した。

その記事には、第三者委員会発足前に、当時の田中社長、室町会長、法務部長等の東芝執行部が、原発子会社の減損問題を委員会への調査委嘱事項から外すことを画策するメールが掲載されていた。その東芝執行部の意向は、東芝の顧問の森・濱田松本法律事務所から、第三者委員会の委員の松井秀樹弁護士に伝えられ、結果的に、第三者委員会報告書では、原発事業をめぐる問題は調査事項から外された。

この報道で、東芝第三者委員会が、「日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠した中立・独立の委員会」とされていたのに、実質は、裏で会社側の意向どおりに動く「偽りの第三者委員会」であったことが明らかになった。本来、不祥事で信頼が失われた企業に代わって、信頼回復の役割を果たすべき第三者委員会によって、逆に東芝に対する社会的信頼の喪失が決定的なものとなってしまったのである。

日本を代表する伝統企業の東芝が、その後、第三者委員会も加担する形で隠蔽されていた「米国の原発子会社での巨額の減損」をめぐって一層深刻な事態に陥り、企業の存続すら危ぶまれる事態に陥っていったことは、記憶に新しいところだ。

もちろん、第三者委員会が、中立・独立の存在であることを振りかざして、その企業のあらゆる問題を掘り起こして、経営者を糾弾するような姿勢をとるのは、不祥事企業の信頼回復という設置目的とは真逆の行動である。しかし、第三者委員会は、当該企業の不祥事の根本原因を究明すべき立場にある。そのための調査スコープについては、中立かつ独立の立場から検討した上、会社執行部との間で十分な協議をする必要がある。東芝の第三者委員会としては、米国の原発子会社での巨額減損の問題は、絶対に目を背けてはならない問題だった。

4 調査手法をめぐる問題

第三者委員会の調査手法は、かつては、役職員等の関係者に対するヒアリングが中心で、それに関連して、情報を収集するための手段としての全従業員に対するアンケート調査、内部通報窓口を設置というのが一般的な方法だった。最近では、調査の手段としてデジタルフォレンジックや従業員に対する匿名アンケート調査が重要な手段となっているが、それぞれに問題点がある。

(1)責任追及の対象者のヒアリング

第三者委員会は、不祥事の事実を解明し、原因を究明することで、再発防止に向けての抜本的な対策を講じるという組織的対応を行うことを目的とするものであり、本来、責任追及を目的とするものではない。

しかし、比較的小規模な企業の不祥事のように、経営者等の特定の個人の関与の程度が大きい場合には、第三者委員会の調査結果如何では、個人的責任の追及につながる可能性が高い。この場合、第三者委員会の調査の対象となる個人としては、第三者委員会の調査への対応の結果如何では、その個人にとって重大な不利益が生じるリスクがあり、調査への対応について弁護士の関与が必要になることも考えられる。例えば、当該個人が選任した弁護士がヒアリングに同席するとか、資料の提出を当該弁護士を通じて行うことを条件に調査に応じる、ということもあり得る。

このような場合、個人の信用や名誉にも関わる問題について弁護士に相談し、その助言にしたがって対応すること、弁護士を対応窓口とすることは、調査対象者の正当な権利である。当該弁護士が調査妨害的行動をとったり、調査妨害を指示したなどの事情がない限り、第三者委員会側は、当然の権利行使として受け止めるべきであり、弁護士の関与自体を調査の制約要因のように扱うべきではない。むしろ、委員会と当該弁護士との間で十分に協議していくことが円滑かつ効率的な調査につながるはずである。

(2)デジタルフォレンジック

もともと、第三者委員会による調査は、任意の協力によるヒアリングが中心であり、不利益供述を引き出して事案の真相を解明する上で限界があった。それが、コンピュータやデジタル記録媒体の中に残されたデータを解析するデジタルフォレンジックによる客観的な資料の収集が可能となり、事実解明のレベルが全体として高まったことは間違いない。

しかし、それに頼りすぎると、供述を軽視して、メールデータ等の外形的事実に偏りすぎた認定が行われるなどの弊害が生じる可能性もある。結局のところ、「何を考え、何を行ったのか」ということは、その当事者に聞かなければわからない。メールも、それを書いた趣旨や、目的によって、その意味は異なる。

また、不正調査の手法としてデジタルフォレンジックという方法が定着すると、何らかの不正に関わる場合に、最終的にメールデータが証拠になることを意識したメール送信が行われる可能性もある。デジタルフォレンジックは、不正調査の有力な手段ではあるが、過信するのは危険である。

(3)従業員に対する匿名アンケート

また、最近では、第三者委員会が従業員に対する匿名アンケート調査を実施し、その回答を調査に活用している例が多い。しかし、匿名アンケートの回答は、ある意味「無責任な回答」であり、問題を把握するための手がかりにはなり得るが、それ自体を事実認定に用いるのは危険だ。

スルガ銀行のシェアハウス融資をめぐる不正についての第三者委員会の報告書で、営業プレッシャーに関して「数字ができないなら、ビルから飛び降りろといわれた。」「死んでも頑張りますに対し、それなら死んでみろと叱責された。」などの事実が赤裸々に記載され、マスコミでセンセーショナルに取り上げられたが、これらは殆どが匿名アンケートの回答だ。パワハラの事実をヒアリングで引き出すのは極めて困難で、匿名アンケートだからこそ、多くの回答が出てくると言える。

しかし、あくまで「匿名」による回答であり、確認された事実ではない。これらの回答から、「パワハラ的環境が存在したこと」は窺われるとしても、それが、問題とされた不正とどう関係するのかはわからない。それを、委員会の調査結果の中心的事実のように記載することには疑問がある。

5 第三者委員会報告書の作成及び確定のプロセス

第三者委員会の中立性・独立性は、その調査が、委員会独自の判断で適切に行われることに加えて、調査結果に基づき、委員会のアウトプットとして公表される「第三者委員会報告書」が、依頼者側の介入を受けることなく、独立した判断で作成されその内容が確定することによって担保される。報告書の作成・確定のプロセスは、第三者委員会の中立性・独立性の核心と言える。

しかし、第三者委員会の報告書の内容は、依頼者側の企業や役職員、関係者個人の重大な利害に関わるものであり、一度公表されれば、世の中にも、また関係当局においても、当該不祥事等の事実関係について「真実」として取り扱われることになる。それだけに、報告書での事実認定の適示は慎重に行われなければならない。

第三者委員会の判断の独立性を確保するためには、報告書確定前は、依頼企業側には一切の情報を与えるべきではないという考え方もあり得る。しかし、その問題について最も多くの情報を有し、詳しく事情を知っている依頼企業側が全く関与せずに調査が行われ、報告書の内容が確定した場合、重大な誤謬や誤解を生じるリスクがある。第三者委員会の独立した判断と責任において報告書が作成されるという原則に反しない範囲で、依頼企業側が関与することは、むしろ必要なことと言える。

そういう意味で、少なくとも、客観的事実、前提事実について報告書の記載について形式的な誤りがないか否かの確認については、当該企業側のチェックを受けることは合理的な方法である。

また、当該不祥事の核心部分に関しても、第三者委員会の認定事実として報告書で公表することが依頼企業や役職員、関係者に重大な影響を与える事項については、報告書の確定前の段階で、当事者の企業側に第三者委員会の認定事実を提示し、意見を求めることが合理的な場合もある。

もちろん、報告書の確定前に、委員会が「報告書案」を提示し、その案に対して、企業側が意見や要望を述べる機会を与えたとしても、それは、その内容について「了解」を得るためものではない。あくまで、委員会が独自に判断するための材料としての意見を聞く機会を与えるに過ぎない。企業側が意見や指摘をしなかったとしても、企業側がその内容を受け入れたことになるものではないし、意見や指摘が行われたとしても、それを検討した上で、第三者委員会が採用しないこともあり得る。

第三者委員会の中立性・独立性の確保と、報告書の真実性の確保というのは、依頼企業の関与をどのような範囲で行わせるか、多くの場合、非常に困難なジレンマに直面することになる。第三者委員会側で委員長がリーダーシップを発揮し、両者のバランスを図ることが必要である。

6 第三者委員会の費用・報酬額

第三者委員会の委員長・委員、調査補助者の報酬に関しては、依頼者の企業から一切の指示も干渉も受けず、独立した立場で調査等を行う存在であることから、報酬額の決定に関して微妙な問題が生じる。

第三者委員会に関わる弁護士の報酬については、日弁連の第三者委員会ガイドラインにおいて、「弁護士である第三者委員会の委員及び調査担当弁護士に対する報酬は、時間制を原則とする」とされており、委員長・委員や調査補助者の弁護士については、業務を遂行するためにかかった「所要時間」に契約上定められた「1時間当たり報酬額」(単価)を乗じて報酬額を算定する時間制(タイムチャージ制)によって報酬を算定することが多い。

しかし、第三者委員会の報酬額を時間制で算定することには疑問がある。特に問題なのは、調査補助業務に関わる弁護士の数である。ヒアリングや会議に多数の弁護士が参加したとして、各自が「所要時間」を計上すると、それによって調査でかかる費用が、依頼企業の想定を超えた膨大な金額になるからである。

時間制は、弁護士の報酬請求において一般的に用いられる方法だ。しかし、通常の業務委託は、業務の内容について協議した上で行われ、請求金額が当初想定される範囲を超える場合には、改めて協議が行わる。同じ委託業務に要する時間は、弁護士の能力によって差があり、非効率な弁護士の業務にかかった時間を、すべて依頼者側に負担させることはできない。

当該業務にいくら時間がかかったとしても、その時間に単価をかけた金額が、依頼者に理解されないような金額に上っている場合には、相当な金額になるよう所要時間を削減し、最終的な請求額を、当該業務の性格や内容に応じて相当な範囲に調整する場合が多い。時間制の報酬請求額の根拠となる「所要時間」については、依頼者側と業務を受託する弁護士の側との信頼関係の下で、相応の調整を行うのが一般的だ。

ところが、第三者委員会と委託者の企業との関係は、顧問弁護士とクライアント企業との関係とは異なり、依頼者の企業の指示に従うことなく、独立、中立の立場で、調査等を実施するのであり、企業側には第三者委員会の動きをコントロールできない。依頼者から独立した立場とされる第三者委員会は、いかなる方法でいかなる調査を行うのか、調査補助者にいかなる調査を行わせるのか、すべて決定する立場にある。調査スコープも、第三者委員会主導で、依頼企業と協議して決定する。このような立場にある委員会の委員長・委員の報酬を「時間制」で決めることにすると、自らの判断で調査範囲を拡大させれば、それによって、所要時間が増大し、報酬も増えることになってしまう。

「時間制」を原則とするとの上記のガイドラインも、「ハンコ代」的な報酬や、成功報酬型の報酬のような不適切な方法ではない算定方法として「時間制を原則」とするものだ。それは、注記で「委員の著名性を利用する『ハンコ代』的な報酬は不適切な場合が多い。成功報酬型の報酬体系も、企業等が期待する調査結果を導こうとする動機につながりうるので、不適切な場合が多い。」とされていることからも明らかだ。「時間制」が常に適切な報酬の算定方法だとしているわけではない。

委員長・委員の報酬算定については、委員会の設置期間、その間に予定されている委員会の回数、時間、調査への関与等を考慮して、「ハンコ代」と言われるような不当に高額ではない、相応の「定額報酬」とするのが適切だと思える。

私自身について言えば、過去、第三者委員会委員長を務めた際には、報酬は、月額100万円と決めていた。一つの委員会の活動に殆ど専念せざるを得ないような負担の大きい委員会においても、それは変えなかった。会社側との対立的な状況となった九州電力「やらせメール問題」第三者委員会では、会社側から「タイムチャージによる請求」を強く勧められたが、月額100万円を譲らなかった。独立した立場で会社側に対して厳正な調査を展開していくことで自らの報酬が増えるのはおかしいと考えたからである。

一方、調査補助者については、依頼者の企業との契約において、「職務の遂行に際しては、第三者委員会の指図のみに従う」などと定められるのが通例であり、依頼者からではなく、第三者委員会のみから指示を受け、その指示にしたがって調査業務を遂行すべき立場である。実際に、調査補助者がそのような立場なのであれば、時間制で報酬を算定すること自体に問題はない。

しかし、その場合の各調査補助者の「所要時間」や報酬額は、当然のことながら、第三者委員会の設置目的や、委員会から調査補助者への「調査指示」に照らして合理的なものでなければならない。その点については、調査補助者が、「下請」であるとすれば、「元請」の立場にある第三者委員会側が責任を持つべきである。とりわけ、委員長は、委員会の事務を総括する立場として、調査補助者の報酬請求額について管理すべき責任がある。それは、第三者委員会の調査全体を適切かつ合理的なものとすることについての委員会の重要な職務の一つだと言えよう。

7 第三者委員会はどう在るべきか

7年前の今頃、私は、九州電力「やらせメール」問題の第三者委員会を題材として、企業不祥事における第三者委員会の役割、そのガバナンス上の重要性を【第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力やらせメール問題の深層】(毎日新聞社:2012年)で論じた。そういう私にとって、「第三者委員会」の現状は、誠に残念である。

根本的な問題は、冒頭にも述べたように、日弁連の第三者委員会ガイドライン等で、ステークホルダーに対する説明責任を果たすという第三者委員会の「公益的目的」が強調され、一度第三者委員会が設置されると一切他者の介入を許されないような「聖域」のように扱われる一方で、第三者委員会と調査補助者の業務全体が、公益性からかけ離れた「第三者委員会ビジネス」と化していることである。今後、第三者委員会の在り方に関して、抜本的に検討していくことが必要だと考えられる。

(1)設置の是非の検討の段階

前記1で述べたように、問題が表面化しておらず、企業に対する批判が顕在化していない場合、第三者委員会を設置することは、企業に重大なダメージを生じさせることになりかねない。「株主・投資家に対して開示すべき重大な問題」が判明しているのか、当該問題について調査によって明らかにすべき「事実」があるのか、という観点から、慎重に判断する必要がある。

特に、「重大な問題」と言えるかどうかは、単なる、違法性の有無の判断だけではなく、その問題が社会から、或いはマスコミからどのように評価され、批判されるか、株価にどのような影響を与えるのか、などについて的確な予想に基づいて判断する必要がある。その判断は、それまでの平時の企業経営の経験が中心で、不祥事対応についての経験やノウハウを持たない企業経営陣や取締役会メンバーが適切に行うことは極めて難しい。

そこで、当該企業の顧問弁護士事務所等が相談を受けることになるが、一般的な弁護士業務とは性格を異にする不祥事対応について適切な助言を行うことは、企業の不祥事対応における「付加価値の高い業務」だと言える。

この場面で問題なのは、上記のような相談を受けた当該企業の顧問弁護士や法律事務所が、企業の対応に関して検討し助言する業務を受任した上で、第三者委員会の設置そのものにも関与することの是非である。

第三者委員会の設置の是非についての助言や、委員会の設置をサポートする業務を行った弁護士は当該第三者委員会に関する利害関係者なのであるから、第三者委員会の委員や調査補助者となることは適切ではない。ところが、実際には、相談を受けて助言を行った弁護士が、委員会のメンバーを推薦し、その上で自ら調査補助業務を受任するというような事例もある。そのような経緯で設置された第三者委員会には、委員会の調査の方向性や報告書の内容に重大な問題や疑念を生じさせることになる。

重要なことは、第三者委員会の設置の是非についての助言や委員会の設置をサポートする業務が、設置後の委員会の業務とは切り離され、その独自の付加価値が認められることである。

(2)「委員会中心主義」と委員長の職責の重要性

第三者委員会設置後、委員会は、依頼企業と協議して調査事項を特定し、調査補助者を選任するなどして調査体制を整備し、調査を実行し、調査報告書を取りまとめることになる。また、社会的に注目されている案件では、設置段階での記者会見を行い、設置の目的、調査事項、調査期間、調査体制等について説明を行うこと、調査報告書を提出し公表した段階での記者会見で、報告書の内容について説明することも必要になる。このような第三者委員会の活動すべてにおいて、「委員会中心主義」が貫かれなければならないのであり、前記6で述べたように、委員会の事務を総括する立場として、委員長の職責は極めて重要である。

問題は、このような「委員会中心主義」の下で、その能力・識見を備えた人材が委員長に選任されているとは必ずしも言えないことである。

第三者委員会の活動全般を運営する職責を担える委員長の能力・識見を適切に評価することと、その人材育成を図ることが重要だと言えよう。

(3)委員会の構成

最近の企業不祥事での第三者委員会では、弁護士だけで委員を構成する場合が多く、会計に関する問題の場合に公認会計士が加わる以外に、他の分野の専門家が委員に加わる例は少ない。

第三者委員会が、不祥事企業に代わってステークホルダーに対する説明責任を果たすことを目的とするものなのであれば、実施した調査や調査報告書の内容が、その説明責任を十分に果たしたものかを評価できる委員会の構成が必要となる。そのような観点からは、品質データ改ざん、検査不正、免震性能の偽装など、製品の品質・安全性に関わる問題であれば技術面の専門家、医療に関わる問題であれば医療の専門家というような、問題の性格に応じて専門家を委員に加え、委員会内での検討・議論を行うのが合理的だと考えられる(前述した九州電力の第三者委員会では、弁護士の私が委員長を務めたほかは、社会心理学専門と会社法専門の各大学教授、消費者問題専門家という4名の委員構成であった)。

(4)第三者委員会をめぐる弁護士会の動き

最近では、第三者委員会担当弁護士名簿を整備し、企業などの組織から第三者委員会の要請があった際に、適任者を紹介する制度を設置し、第三者委員会担当弁護士名簿への登録のために研修を義務づけるなど、弁護士会として、第三者委員会の設置に積極的に関わろうとする動きが見られる。

しかし、そのような義務研修と組み合わせた登録制が、本稿で述べたような第三者委員会をめぐる様々な問題に対応できる人材の養成と紹介につながるようには思えない。逆に、多くの弁護士に、第三者委員会に関連する業務の「弁護士にとっての旨味」を認識させ、弁護士業界における「第三者委員会のビジネス化」をますます助長しているように見える。

第三者委員会は、内部者中心の取締役会の構成など、従来からの日本的ガバナンスの下で、重大な不祥事への対応において必要な外部性・客観性を確保するための方法として定着してきた一つの「日本的システム」であり、法的根拠はないのに、その調査結果が社会的に尊重されるという特別の効果を生じさせるものである。しかし、第三者委員会の現状が、そのような効果を生じさせるに相応しい実体を備えたものと言えるか、甚だ疑問である。

このままでは、第三者委員会の「病理」はますます深刻化し、企業のみならず社会をも蝕むことになりかねない。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2018年11月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。