スイスと日本、世界で2つの中央銀行だけの異常とは

有地 浩

米国の株価は、米国長期金利の上昇や米中貿易摩擦激化懸念などから、10月以降下落傾向にあり、特にハイテク株が多いナスダック総合指数は、大きく下げてきている。

スイスフランと日本円の紙幣(Wikipedia、写真AC)

こうした中で、含み損を抱えて株価の先行きに不安を抱える投資家も多いと思うが、スイス中央銀行(正式にはスイス国立銀行)総裁も、背筋にひやりとしたものを感じているに違いない。なぜならスイス中央銀行は近年大変積極的に株式投資をしているからだ。

2017年末のスイス中央銀行のバランスシートを見ると、さすが伝統的に金を好む国だけあって、資産の中で、金が約5%と二番目のシェアを占めているが、最大のシェアは外貨建て投資で約94%となっており、このうちの約20%、約1600億ドル(約18兆円)は米国や欧州の企業の株式だと言われている。

米国については、米国SECが公表している機関投資家株式保有状況報告でその実態がわかるが、アップル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックなど、これまで米国の株価上昇をけん引してきた銘柄を中心に多額の投資をしており、多くの銘柄でヴァンガードやブラックロックといった資産運用会社を除けば、スイス中央銀行が筆頭株主となっている。

では、なぜこのようなことになったかと言えば、それはスイスフラン高を抑えるための為替介入が原因と考えられる。

2008年のリーマンショックと2010年の欧州債務危機を経て、世界のお金は安全な逃避先であるスイスフランに流入して、スイスフランの為替レートが急上昇した。これに対して、スイス中央銀行はスイスの輸出産業が打撃を受けないように、1ユーロ=1.2スイスフランを防衛ラインとして無制限に為替介入をすると宣言し、介入で得た外貨で諸外国の企業の株を大量に購入したのだ。

この防衛ラインは、2015年1月になって為替投機に抗しきれず撤廃され、一時スイスフランは1ユーロ=1.05スイスフランあたりまで急騰したが、その後欧州経済の緩やかな回復に伴って、スイスフランの対ユーロレートは徐々に水準を切り下げていき、欧州の移民問題で一瞬明るい光が見えかけた今年の4月には、ついに以前防衛ラインだった1ユーロ=1.20フランに戻った。

しかし、近年のスイスフラン安の理由はそれだけではなく、実はスイス中央銀行が為替防衛ライン撤廃後も為替市場に介入を続けていたことが大きな理由である。スイス中央銀行は引き続き外国株を積極的に買っていたのだ。

今年6月30日現在、スイス中央銀行の株式保有高は、米国企業の株だけで約870億ドル(約9.8兆円)に達しているが、ここまで来ると、いくらスイスフラン高対策の結果とはいえ、異常としか言いようがない。そもそも世界の中央銀行は、通貨の番人としての役割から通貨の価値の裏付けとなる資産の構成には非常に慎重で、国債や政府保証債などの大変手堅いものへの投資が中心となっているのが普通だ。

と、ここまで書いてきて、世界でもう一つリスク資産を積極的に買っている中央銀行があることに言及しないわけにはいかないと思い至った。それは言わずと知れた日本銀行だ。

日銀の資産構成は、直近の資料によれば、国債の大量購入を反映して国債が84.7%と最大の項目となっているが、ETFやJ-リート等についても4.3%、約23兆円という膨大な額となっている。

こうした日銀のETF大量購入による株価形成の上方バイアスも問題だが、そもそも中央銀行がこれだけたくさんのリスク資産を抱えること自体に問題があると言わざるを得ない。デフレ脱却のためにできることは何でもやると言って始まった異次元の金融緩和も、開始して既に5年半が経過し、企業収益や雇用情勢が改善してきている。日銀はそろそろETF等の購入から手を引き始める必要がある。

今や池の中のクジラと化した日銀が動くと株式市場等に大きな波乱が起こりかねず、非常に困難な作業ではあるが、そうしないとこれから株価が大きく下落すれば、日銀はスイス中央銀行と運命を共にすることになりかねない。