ジュネーブの国連人権理事会で6日、「普遍的・定期的審査」(UPR)の中国人権セッションが開かれた。
Human rights advocates aren’t taking Beijing’s interference in the UPR process lying down. Hundreds of Tibetans and Uyghurs rallied outside the UN office to demand the release of family members and closure of the camps in #EastTurkestan. #Tibet #China https://t.co/x9pnz3Si2U pic.twitter.com/AQijd3jdZ6
— TheChinaForum (@TheChinaForum) 2018年11月7日
国連人権理事会では各加盟国の人権状況、人権問題に関連した国際法、国連憲章の義務の履行状況を調べるために、2006年からUPRという審査メカニズムが設置され、08年4月から具体的に実施されている。
中国は2009年2月、第1回目のUPRを受け、2013年10月に第2回目のUPRを受けた。中国は13年に第2回目の審査報告の内容を受け、フォローアップの報告書をUPR作業部会に提出している。
UPR作業部会では全ての加盟国が参加し、被審査国の人権状況について質問できる。同審議には非政府機関(NGO)は発言できないが、傍聴できる。その審査内容を理事会の3国代表が報告者国となり、まとめてUPR作業部会に提出。それが採択されると、理事会の全体会合に提出され、正式に採択される運びとなる。
UPR作業部会には3つの基本文書が審査のたたき台として提出される。一つは審査される国の「政府報告書」、2つ目は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が人権問題に関連した国際条約や憲章に対する被審査国の義務履行を編集した文書、そしてOHCHRがNGOらの提出した、被審査国の人権問題に関する信頼できる情報をまとめたサマリーの3文書だ(「日本の『人権問題』を追求せよ」2012年10月30日参考)。
中国の人権状況は近年、悪化し続けている。人権侵害を訴える被害者たちは、中国の人権関連法は中身のない党のスローガンに過ぎないと指摘する。新疆ウイグル自治区、チベット自治区政府の少数民族への弾圧、キリスト信者への迫害、法輪功メンバーへの臓器摘出問題など、人権蹂躙は山積している。そこで中国の「政府報告書」(24頁)の概要を紹介する。
中国の政府報告書は2013年のUPR作業部で勧告された252項目への改善要求に対する返答で、「252項目中、204項目が受理された」という。中国政府は2012年から15年の第2次「国家人権活動計画」を終え、「人権の擁護と改善に向け現在は第3次活動計画に入っている」と強調、人権の改善に積極的に取り組んでいる姿勢をアピールしている。ちなみに、中国には8つの国立人権教育センターが存在するという。
問題は、なぜ中国では人権が改善されず、むしろ悪化してきたのかだ。「人権は中国政府の単なるプロパガンダだからだ」といえばその通りだが、それでも何らかの論理と弁明が必要だろう。遵守するか否かは別として、中国は人権に関連した26の国際条約(例「児童虐待防止条約」や「女性差別撤廃条約」など)に加盟している。
中国の「政府報告書」の中にその答えがあった。曰く「世界では人権改善の普遍的な道は存在しない。各国の民族的な条件が土台となって人権は改善されていく。中国の場合、5000年以上の中国文化に基づいた人権だ」、「中国の人権は国民の福祉をスタートラインに置いている」というのだ。中国の国民が聞けば涙が出てくるような個所だ。
中国共産党政権は「人権には普遍性と特殊性の両面がある」と指摘する一方、「わが国は人権問題の政治化、ダブルスタンダードを強く批判する」と表明している。
冷戦時代、旧ソ連・東欧共産政権は欧米から人権問題が指摘されると、「内政干渉だ」と反発したが、北京政府は中国社会の特殊性という観点から人権蹂躙という批判に反論しているわけだ。
「報告書」では、経済・社会福祉関連から教育、言論・メディアの自由、女性・児童の権利擁護、「信教の自由」、そして「少数民族の権利」まで広範囲の分野の人権状況が報告されている。
「初等・中等教育から非政府機関、メディアに至るまで人権、法治主義に関する教育を受けている」と豪語し、「人権問題の非政府機関の活動を促進、保護している」というが、人権活動を擁護した弁護士が当局に拘束されたというニュースが頻繁に流れてくる。「政府報告書」はプロパガンダに過ぎないことは見え見えだ。
「報告書」で最も力の入っている個所は、人権の「経済的、社会的、文化的権利」の向上だ。中国経済の発展は即、国民の生活向上に繋がれば経済発展は国民の人権向上だが、一部の党エリートが富を独占している現実は無視できない。中国共産党政権は2016年から20年まで第13回経済・社会開発5か年計画の実施中だ。
「Gross domestic product increased from 54 trillion to 82.7 trillion yuan, with an average annual growth of 7.1 per cent; the country’s share of the world economy grew from 11.4 per cent to about 15 per cent 」
「信教の自由」について。報告書では、「信教の自由」は保障されているというが、中国各地でキリスト教会の信者たちは迫害され、教会は破壊されている。ちなみに、中国には約2億人の宗教人口があり、38万人の聖職関係者がいるという(「中国共産党政権、宗教弾圧強める」2016年4月27日参考)。
「China is accelerating the development of laws and systems for protecting the freedom of religious belief。
The Regulations on Religious Affairs, which were revised and re-promulgated in 2017, strengthened the protection of citizens’ freedom of religious belief and the lawful rights and interests of the religious community.」
「少数民族の権利」(16頁)について。「政府報告書」によると、中国は統合された多民族国家で、少数民族の人口は1億1379万人で全人口の8・49%を占めるという。ところで、少数民族ウイグル人に対し、中国当局の人権弾圧はここにきて強まっている。新疆ウイグル自治区には、超法規的措置で大量拘束されたウイグル人の収容所が存在するという。人権団体やウイグル組織によると、収容者の数は100万人以上だ。
ジュネーブのUPR審査の場で6日、米国やドイツの代表からウイグル人強制収容について指摘されると、中国当局は「テロリズムに感化された人物を過激な思想から遠ざけるための職業訓練センターだ」と述べ、過激思想からの更生が目的だと説明している。
「報告書」は最後に「人権が完全に保障されている国はない。わが国も例外ではない」と指摘し、予想される内外の批判に対して防衛線を張っている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。