「聞き手側が原因でことばが通じないケース」を紹介したい

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
※Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

国語辞典編算者の飯間浩明さんがTwitterで「ことばが通じない人」というお題で興味深いパターンを取り上げられています。人と人とのコミュニケーションをする上では、「自分の意図や気持ちを100%の精度で伝えることは不可能」という原則に立たなければいけないものと考えています。悲観的思考によるものではなく、であるからこそ話者は聞き手に伝わる努力をするべき、ということなのです。「伝わる努力、創意工夫をするべきは聞き手ではなく、話者の方である」と私は常々考えています。

しかし、その前提に立っても聞き手が原因で話者が努力をしてもまったくことばが通じないパターンが存在します。

ことばが通じない人(1)語句を理解しない

このパターンでは「言葉の意味を理解していない場合」に起こります。

…同じ日本語でも、言語の運用能力は人によって異なるのが常なるものです。専門家の話は門外漢が聞いてもさっぱり分からない事があります。

「クメンヒドロペルオキシドは有機の過酸化物の一種で、示性式はC₆H₅C(CH₃)₂OOH。CAS登録番号[80-15-9]。無色または黄色の液体である。」

「US GAAP (米国会計基準)は、米国における“一般的に公正妥当と認められている会計原則”で、米国証券取引委員会により発行されている会計基準とガイダンスである。」

上記は私が適当に化学と会計学の用語を引っ張ってきたものですが、読者のあなたはこれらを理解できるでしょうか?それぞれの分野について、用語の意味を理解していないと、そもそもコミュニケーションが成り立たないのです。

このケースでは用語が通じない相手へのコミュニケーションを続ける意義はありませんから、話者が用語の解説をするなどのフォローが必要となるのではないでしょうか。

ことばが通じない人(2)語句の意味の理解が不正確

さて、ここからがまさに「ミスコミュニケーション」と呼んでいい、「誤った対話の事例」です。

この事例では、Aは「たびたび=毎日」とは考えていないのに、Bは「たびたび=毎日」という誤った解釈をしています。たびたびという語句は国語辞典によると、

何度も繰り返し行われるさま。いくども。しばしば。

とありますから、このケースではAが定義どおりの正しい理解をして、正しい使い方をしているのにも関わらず、Bは自己流の誤った解釈をしているためにミスコミュニケーションが発生しています。となると、改善をする余地があるのが聞き手側であるBです。今回の「たびたび」という語句は、「毎日行われる」と解釈している人は少数派であり、誤った理解をしています。このケースは、Bが正しい解釈へ寄せる努力をするべきと考えます。

ことばが通じない人(2′)文脈的意味を理解しない

文脈で使われる意味を理解せず、額面通りに受け取ってしまうとミスコミュニケーションにつながります。

文脈的に使われている言葉を正しく理解しなければ、話者の意図した語句の意味を聞き手が理解することは出来ません。

別の例えを出すならば、友人が訪問した際、そろそろ帰って欲しい時に

A「明日も早いからもう帰ってくれ」

とはなかなか言いづらいもの。そこで、婉曲な表現を使うことになります。その際、この事例のように文脈的意味を理解できないと、次のような展開になってしまいます。

A「そろそろ寝ようと思うんだけど…」

B「へー!結構早い時間に寝るんだね!早寝早起きって健康にいいよね!?」

※これは黒坂作

この場合の文脈的な意味合いは「ホストが早く寝る必要性を訴える→ゲストは早く帰ってホストのニーズに応える」という意図があるでしょう。そこを汲み取れないことにはKY(空気読めない)認定されてしまうのです。

ことばが通じない人(3)表現意図を理解しない

下記の例1は額面通り受け取るべきでない場面、例2は額面通り受け取るべき場面です。

例1はビジネスマンであればよく見られる光景で、私も何度も経験しています。「そのうち飯でも」というメッセージは多くの場合、「社交辞令」です。本当にご飯を食べに行くかは、また別の話。ところがBはそれを「ああ、一緒にご飯を食べに行くなら日にちを確定させよう」と、社交辞令で差し出したAの意図を理解出来ていないことになります。この場合の模範解答は「ええ、そのうちにぜひ」と同じく社交辞令で返すべきではないでしょうか。

社交辞令でない場合の誘いは、「ぜひ食事でもご一緒したいので、直近で空いているタイミングはありますか?」と、より具体的になるものです。この場合は明らかな社交辞令なのに、言葉の額面通り捉えてしまってはAは困惑してしまうだけでしょう。

そして例2。こちらは例1とは逆に話者の意図を聞き手が受け取れなかったパターンです。本来は額面通り受け取るべきシーンを変に深読みした結果、誤解が生じています。自分の体臭にコンプレックスがある人は、「周囲は自分を臭いと思っている」と思い込んでいる場合があります。しかし実際に「君、臭うよ」と言われない限りは、相手の心の内を確かめる術は存在しません。ですので、それを確認するまでは、このような反応をするべきではないのです。

ミスコミュニケーションはこれからも続いていく、永遠の課題です。重要なのは冒頭に書いた通り、「自分の考えを100%そのまま相手に伝えることは難しい」という前提に立ち、話者が聞き手の受け取り方を想定して創意工夫をすることです。しかし、そもそも聞き手側に原因があって、話者の努力虚しく伝わないケースもあるということです。言葉の専門家による、Twitterのお話は大変勉強になるものだと感じました。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。