外国人労働者拡大:なぜ「移民ではない」と安倍首相は言い張るのか?

田原 総一朗

自民党総裁選と内閣改造を受け、10月24日に臨時国会が召集された。

この国会は、実にさまざまな問題をはらんでいる。たとえば地方創生担当相の片山さつきさんだ。彼女は国税庁への「口利き疑惑」が週刊誌で取り沙汰された。ほかにも、何人もの閣僚が、企業献金をめぐる疑惑などをかけられている。

予算委で答弁に立つ安倍首相(衆院インターネット中継より:編集部)

だが、もっとも重要なのは、外国人労働者の問題ではないか。

政府は、出入国管理法を改正し、外国人労働者の受け入れ体制を整えようとしている。一定の知識・経験を条件とする「特定技能1号」と、熟練した技能が必要な「2号」を新たな在留資格として新設しようとしているのだ。1号は在留期限を通算5年、一方、2号は条件を満たせば、在留期限は決めず、家族の帯同も認めている。

しかし、すでに日本では、「外国人研修生・技能実習生」などとして約26万人もの外国人たちが暮らしている。雇用形態は、もちろん非正規だ。はたして、基準を満たせば、彼らも「1号」に入れるのか。「1号」と「2号」の審査の基準もまだ明確になっていない。そもそも「1号」と「2号」の条件の違いは何をもとに決めたのか。

政府が、外国人労働者の受け入れをこれほど急ぐのはなぜか。いうまでもなく、背景にあるのは、国全体での人手不足だ。日本の外国人労働者の受け入れ体制は遅れている。一方、日本以外の国では、体制が整っている国も多い。

外国で働くことを希望する人たちのなかで、人気第1位は台湾だという。日本は続く2位だが、韓国も体制を整えつつあり、うかうかしてはいられない。あっという間に追い抜かれ、日本には来てくれなくなってしまうかもしれない。

だからこそ、いまのうちに、きちんと体制を作ろう、と政府は考えているのだろう。これは理解できる。

だが、問題なのは、あまりにも急ごしらえで、極めてあいまいであることだ。しかも、安倍晋三首相は、この政策を打ち出しながらも、外国人労働者を「移民ではない」と言う。なぜ、安倍首相は矛盾を承知で、そう言わねばならないのか。

自民党のなかには、「移民反対」の議員が少なからずいる。「産経新聞」などのメディアにも反対派が存在する。「日本人の職が奪われる」「日本人の純粋性が失われる」などが、その理由だろう。つまり、安倍首相の「身内」にも反対意見は少なくないのだ。

野党も当然、反対している。安倍政権による基準が曖昧だという理由だけではない。「日本人の職が奪われる」というのも理由のひとつだ。労働組合、その元締めの連合(日本労働組合総連合会)が反対しているからだ。

「移民ではない」と安倍首相が苦し紛れに言わざるを得ないのは、こういった状況のせいなのだ。

今回の国会での重要な議題は、まだまだある。消費税引き上げの問題も大きい。現行の消費税8%を、2019年10月に引き上げ、10%にするという件だ。

日本の借金は、先進国のなかでも断然多い。1200兆円にものぼる。その財政を健全にしようと、消費税アップを決めたはずだ。ところが、消費税引き上げの代わりに、さまざまな経済対策を打ち出している。たとえば軽減税率だ。だが、これはまだよい。キャッシュレスで支払えばポイントを還元するなどは、その効果がよくわからない。

小泉純一郎首相の時代に、「痛みを伴う構造改革」と宣言したことがあった。だが、評判が非常に悪かった。その反省を踏まえたのかもしれない。安倍首相は、その反対の、「痛みを伴わない改革」を謳っているかのようだ。

一方の野党だが、当然、消費税の引き上げには反対だ。だが、そもそも「消費税10%」を決めたのは、野田佳彦さんが首相だった民主党政権の時代なのだ。これもまた大矛盾である。

「外国人労働者受け入れ」にしても、「消費税の引き上げ」にしても、何のために、その政策を実行しなければならないのか、よくわからない。安倍政権は、ほんとうのところをしっかり説明してこなかった。だから、問題がややこしくなり、わかりにくい事態になってしまうのだ。

今回の臨時国会では、与野党の大論戦を期待したい。重要な政策について、国民が納得する議論を展開してほしい。そして、安倍首相には、日本という国の置かれた状況の、ほんとうのところを、きちんと語ってほしいと思っている。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2018年11月9日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。