入国管理法改正案(出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案)が、国会で議論になっている。新たに2種類の在留資格を導入し、外国人の就労資格を拡大、法務省の出入国在留管理庁を設置しようとするものである。
□特定技能1号:不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
→通算5年まで、家族帯同不可□特定技能2号:同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
→在留期間更新可、配偶者と子の帯同可
【出典】首相官邸「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」資料より
「いわゆる移民政策ではない」と安倍首相は語るが、永住者となる道を開く点、日本が実際、すでに「移民社会」になっているのにそのことを認めない点、労働力不足が本当なのか疑問な点、社会保障制度も未整備な点どで、多くの批判を浴びている。
247万人:日本に住むすべての外国人の数
128万人:外国人労働者数
コンビニに外国人店員が増えていることで、実感ベースで感じられていることが数字でも裏付けられる。
移民政策は条件付き、長期的な意味では賛成
筆者は基本、日本社会における「移民」政策には条件付きで賛成だ。そもそも我々の先祖は様々なところきて、その方々で構成されているので、移民をいまさら排斥するのは倫理的にも、もともと多様だった人々から構成されてきたこの島にとっても、別に悪いことだとは思わない。
日本の近代における経済的成功の要因にもなった「国民国家」「国民」思想などの同質性の保持よりも、多様性のほうが、中長期的に将来の日本人にとってメリットであろうし、未来的である。
しかし、経済界の人材不足に対する解決策というにはあまりにも拙速とも思える。景気が良好な今だからこその一時的な現象にも思えるし、ドイツにおける移民社会がもたらした分断の根深さを知っているし、国民の感情面で多くの問題をはらむ。一定勢力として、地方参政権など政治的な力をもち始めることには個人的には警戒をいだいている。
自民党の公約にはあったのか???
自民党の政権公約を見てみよう。その95ページには
「また、全国的に中小企業・小規模事業者における人材不足が深刻化していることから、女性・高齢者・外国人等の多様な人材の活用を促進し、人材の活躍の場の形成を推進します。」
【出典】自民党政権公約
と書いてある。
政策集には、「417 外国人材の活躍促進」として、
「日本経済の更なる活性化を図り、競争力を高めていくため、在留管理基盤の強化を行い、わが国における優秀な外国人材の受け入れ、活躍を促進していきます。わが国で生活する優秀な外国人材が、日本への帰化を希望する場合には、その許否について速やかに判断を行う取組を推進していきます。」
【出典】総合政策集2017 J-ファイル
と明記されているのだ。
つまり、政権はこの公約に沿ってやっただけとも言える。
また、介護、建設業、農業、飲食料品製造、外食業など14業種から受け入れ希望が出ていることも確かなのである。個人的には介護の現場からのニーズや声を多く聞く。そういったこともあり、この政策の正当性はある程度担保されるかもしれない。メディアが突っ込まなかっただけとも言える。
国民は理解しているのか?
しかし、どうみてもこの政策は拙速である。どれだけ国民的な議論がされたのかという点であまりにも心もとない。
私が特に問題にするのは、選挙公約に書かれてはいるが、選挙戦の争点・テーマになっていなかったことだ。一般国民にとっては、いきなり出てきた感があるだろう。私でさえびっくりした。
「国の形をかえること」をいきなり実行し始めたと言われても仕方ない。国民に説明する機会を持ち、考える機会も与えないで、なし崩しにするのは政策姿勢としてどうなのだろうか。
特に、移民政策ではないというレトリックは完全に国民を愚弄していると感じてしまう。「移民」いう言葉は感情的反発があるから使わないが、実質「移民政策」でないことについて論理的に説明してもらいたいもの。
□国連などの国際機関:1年以上外国で暮らす人はすべて移民に該当すると解釈
□国連の定義:日本に住んでいる247万人という在留外国人はほぼ移民
□日本の定義:移民とは入国の時点で永住権を有するものであり、就労目的の在留資格による受け入れは移民には当たらない
この定義の解釈のズレを丁寧に説明してもらいたい。政策の必要性は皆わかっているし、日本人がやりたがらない仕事をやってくれる人は必要だし、多くの国民が総論では賛成であろう。
大事なのは、今回の政策転換が今後どういった方向性の中にあるのか、そして、現状について政府はどういった問題意識を持っているか、である。
政府がしっかり説明責任を果たしてもらうことを期待したい。