東京都の小池知事が自民党都連に「謝罪文」を提出していたという筆者の9日付のスクープは、都政記者クラブのメディアはどこも追いかけてこないかと思いきや、TOKYO MXが同日夕のニュース番組で同様の内容を報じていたようだ。
この1か月余り、筆者の都政政局記事を後追いするメディアがほとんどなかったので、ひょっとしたら都庁記者クラブでは、アゴラの存在すら知られてないのかと肩を落としていただけに少し安堵した。
ところで筆者の都民ファーストの会(以下、都ファ)の内紛政局報道を唯一報じたのが都政新報だった。後追いとはいえ、都政の専門紙だけに筆者の知らない濃い情報もあり、読み応えがあった。その中で筆者が目に留まったのが、読売時代の同期で小池氏の特別秘書に転身した宮地美陽子氏が、自民への引き抜きの噂が出た都議の意思確認などの政務対応を小池氏に任されているという点だった。
以前も書いたが、それは意外な驚きだった。彼女は政治部記者の経験はなく、選挙の洗礼を通過してきた議員たちを相手にどこまで高度なコミュニケーションを取れるのか未知数だったからだ。
“素人”が思わぬ存在感を発揮
と同時に、それは本来はその手の仕事を引き受けるべきもう一人の特別秘書の野田数氏(元都議)が小池氏に遠ざけられていることを示唆する意味もあった。その後取材を進めると、どうやら小池氏と野田氏の関係性は小池氏の知事就任後もっとも緊張している疑いが濃い。
そういう中で小池氏は宮地氏を頼みとせざるを得ない状況になっているのだが、取材を重ねていくと、“政治素人”という読売時代の同僚たちの心配は杞憂どころか、ここにきて政局で存在感を見せはじめているというからさらに驚いた。ある都ファ所属の都議は「宮地さんはいきいきと仕事をしている」と指摘する。
政界関係者によると、宮地氏は先日、小池氏が自民党本部の二階幹事長、都議会自民党の高島直樹幹事長らと会談した際に同席。自民党サイドで「あの女性秘書は何者だ」と密かに注目を集めたようだ。小池氏から同席するように指示があったのかもしれないが、政治家同士の込み入った会合は、普通の秘書なら遠慮することも多いだけに、よくも悪くも新参者らしく堂々と随行してみせた。
筆者は十数年も会ってないが、その人柄は真面目で慣れない仕事も健気にこなそうと努力していることは十分に想像はつく。実際、都庁の幹部職員や報道側へのリレーションも入念にしているという。取材対象者が記者たちを集めてブリーフィングする、いわゆる「記者懇談会」も実施。特別秘書による記者懇は異例のことだそうで、小池氏の定例会見で「不規則質問」が出なくなったあたりは、記者経験者としてメディアコントロールの“妙技”を発揮している効果かもしれない。
「プロ」の野田氏が今後どう出てくるか
宮地氏の存在感が高まるにつれ、逆に野田氏の立場はますます微妙になっていくだろう。野田氏は都議時代からのネットワークを生かし、自民党や公明党との水面下での調整役を担っていたはずだった。しかし、先般の「小池・高島」会談に同席したのは野田氏でなく宮地氏になったことは、野田氏がいわゆる国政でいう国対マターで「蚊帳の外」に置かれはじめたということでもある。
実際、自民党サイドでも小池氏が宮地氏を重用しはじめたことで、2人の特別秘書の間で「パワーシフト」が起きていると見ているようだ。
ある政界関係者は「政治素人だったはずの宮地氏が、小池氏と自民党の歴史的和解の入り口にこぎつけてしまったことで野田氏の心中は穏やかでないだろう」と推察する。今後、宮地氏主導で、小池氏が都議会自民党の吉原修幹事長(町田市選出)との会談を実現するなど自民党都連の関係修復の糸口を掴み、さらにそのまま実体のある和解となれば、パワーシフトは決定的になろう。
しかし、都知事選で小池氏とタッグを組んで数々の奇襲戦術を繰り広げた野田氏のことだ。このまま特別秘書の職を続けるのであれば、そう簡単に引き下がることはあるまい。小池氏の自民接近に衝撃を受けている都ファの都議たちへの関与を強めたり、気脈を通じた自民・公明の関係者とのパイプを生かしたりして、何らかの示威行動に出る可能性は考えられる。小池氏、内紛含みの都ファには、野田氏の存在はこれまでとは違う形で新たな波乱要素となりつつある。
どちらにせよ、「都民不在」の様相にはうんざりさせられるが、思わぬ存在感を見せはじめた宮地氏と、不気味な沈黙を保つ野田氏。2人の特別秘書の動きは、今後の都政政局を展望する上でカギを握っている。