鵜尾雅隆さん『ファンドレイジングが社会を変える』

日本ファンドレイジング協会代表理事・鵜尾雅隆さんの『ファンドレイジングが社会を変える』を拝読しました。

鵜尾 雅隆
三一書房
2014-08-12

 

ファンドレイジングのプロセスは、社会に、自分たちの行っている活動の価値を認識してもらうと同時に、存在する社会問題について啓蒙するプロセス。だから、「単なる資金集めの手段」ではなく、「社会を変えていく手段」という鵜尾さん。

NPOの意識改革、資金集めの具体的手法、日本における寄付の歴史、日米の違い等とても参考になりました。

1)つり銭型寄付から社会変革型寄付へ

少し古いデータですが、2000年の国民生活白書に寄れば、日本の一世帯あたりの平均寄付額は3200円。一方、同時期のアメリカの一人当たりの寄付額は1620ドル(当時のレートで17万8200円)を超える金額。

この背景のひとつとして、日本では、「気が向いたときに、つり銭型寄付をする」という行動が中心なこと。一方で、アメリカでは、寄付をして、社会に何らかの変化を起こしていきたい、寄付したあとの結果や変化を見ていきたいという感覚の寄付が中心であることが挙げられています。

その原因として、日本では貧富の差が小さく、困ったときはまずは家族や身内がなんとかすべきと考えられがちですが、アメリカでは貧富の差が激しく、家族や身内で抱えきれないことが明らかな場合は、寄付や政府の支援等がなければ、社会が不安定化するという意識が生まれやすくなるといいます。

そして、もう一つ大事な要因として挙げられているのが、日本では社会変革型の寄付の成功体験と習慣が少ないこと

その上で、この本では、寄付の成功体験と習慣を定着させるために必要なNPO側のコミュニケーション、ACTION(Attention,Change,Trust,Imagination,Only one,Network)の具体的方法を分かりやすく紹介します。

また、学校教育への警鐘と対策も頷くところが多かったです。

今の学校の寄付教育では、「うちの学校では◯◯に寄付することにしたので、教室に募金箱を置いてあるので、みんな寄付しましょう」というのが中心ですが、このやり方では、子どもたちに「選ぶ」というプロセスがなく、ものすごく「やらされた感」が残ります。

人生で最初の「社会のために役立つ」という体験を「なんだか義務的にやった」という感じになると、ワクワクしないし、達成感もないわけです。

だからこそ、日本中のすべての学校で「子供たちが楽しみながら」「自分の価値観で支援先を選んで」かつ「達成感を感じて」寄付の原体験をできるプログラムとして、日本ファンドレイジング協会が、「寄付の教室」を継続的に開いているというのは、とても共感しました。

社会をより良くしたい人、必読の本です。

<井上貴至 プロフィール>


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2018年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。