仮想通貨に対する課税でフランスは頭一つ世界に先んじた

有地 浩

仮想通貨取引の収益に対する税金は、世界のどの国でも、それまで想定していなかったものが突然現れただけに、その取り扱いに戸惑い、各国の税務当局は応急措置を講じているというのが現状といえよう。

米国では今年9月に5人の下院議員が内国歳入庁に対して、仮想通貨取引の収益に対する税務調査を強化する前に、まず税制のより包括的で簡明なガイダンスを納税者に示すべきだという趣旨の公開書簡を送った。彼らは5月にも同様の意見書を内国歳入庁に出しているが、はかばかしい対応がないので再度書簡を送ったとのことだ。しかし、内国歳入庁としても、難題を前になかなか容易には回答を出せないといったところかもしれない。

写真ACより作成:編集部

そうした中で今月7日、画期的な法案がフランスの下院の委員会で採択された。

従来フランスでも他の諸国と同様に、仮想通貨取引を想定した税法の規定はなかったため、経済財政省の通達で仮想通貨取引の収益の取り扱いを定めていた。それによれば仮想通貨の売買で得た収益は、日本でいえば雑所得のような所得に分類され(頻繁に何回も売買すると日本の事業所得のような所得に分類)、他の所得と合算の上で最高45%(社会保険料と合わせて66.2%)の累進税率で課税されていた。

しかし、今年4月になってフランス国務院(行政事件訴訟の最高裁判所)が、この通達を一部破棄し、通常の仮想通貨の売買益は総合課税ではなく、キャピタルゲイン課税の対象として一律に19%の税率(社会保険料と合わせて36.2%)の分離課税とするのが適当との判断を下した。

こうした状況の中で今月7日、フランス下院の財務委員会は、来年度予算案の修正案として、仮想通貨の売買益は、株や債券の売買益と同様にキャピタルゲイン課税の対象として12.8%の税率(社会保険料と合わせて30%)で申告分離課税するという法案を採択した。

こうした動きの背景には、もちろん上記の国務院の判決が出たことが直接のきっかけではあったが、フランス政府自体がここに来て、ブロックチェーン技術や仮想通貨を積極的に支援する姿勢をとるようになったことが大きい。ブルーノ・ルメール財務大臣は、今では熱心なブロックチェーンと仮想通貨の支持者となっており「欧州の中でフランスを、ブロックチェーンと仮想通貨に関する技術革新の先頭に立たせる」と言っているし、IMFの専務理事で元フランス財務大臣のラガルド氏もブロックチェーン技術と仮想通貨について大変前向きな考えを繰り返し述べている。

ひるがえって我が国の仮想通貨課税の現状を見てみると、とりあえず仮想通貨取引の収益に対する課税の道は付けたものの、フランスで言えば国務院判決前の状況にとどまっているようだ。

日本では現状では仮想通貨の売買益は、雑所得に分類され、他の所得と合算の上、累進税率で総合課税される。これは20.135%の源泉分離課税が認められている株や、同じく20.135%の申告分離課税が認められているFX(外為証拠金取引)などと比較してバランスが取れていない。

今年6月25日に参議院予算委員会で藤巻健史議員が麻生財務大臣への質問に立ち、仮想通貨取引の収益に申告分離課税を導入することについて大臣の見解を質したところ、麻生大臣は、ブロックチェーン技術の重要性を認めつつも、給与や事業の収益が総合課税されている一方で、仮想通貨取引の収益であれば低い税率で分離課税になるというのでは国民の理解が得られないという趣旨の答弁をした。

こうした政府の仮想通貨課税に対する姿勢は、財政再建が叫ばれ、消費税の増税も来年に控える中で、仮想通貨の売買益の申告分離課税など到底考えられないというのが本音だろうし、ブロックチェーン技術は重要だが仮想通貨はうさん臭いもので脱税の温床にもなりかねないという考えも根底にあるかもしれない。

しかし現在の仮想通貨に対する税制は、株やFXとのバランスという点ではやはりおかしいし、それよりもそれではブロックチェーン技術の発展の面で世界に後れを取ってしまうことが懸念される。ブロックチェーン技術はこれからの産業を大きく変革し、発展させる可能性が大きい中で、現在中国がとっている政策のように、ブロックチェーン技術は育成するが仮想通貨は抑圧するという態度では、結局上手くいかないと思う。

確かに仮想通貨以外にもブロックチェーン技術の応用分野は様々あるが、これまでの歴史を振り返るとブロックチェーン技術の発展に対する仮想通貨の貢献は大きかったし、これからもこうした関係は続くものと思われる。

ブロックチェーン技術の発展のためにも、仮想通貨に対する税制を今一度見直す必要があるのではなかろうか。