ベネズエラに軍事介入すべきか否か?

米州機構(OAS)のウルグアイ出身のルイス・アルマグロ事務総長が9月14日に「ニコラス・マドゥロ政権を打倒させるために、この機構はベネズエラに軍事介入することを否定すべきではない」と発言して軍事介入を肯定する表明をしたことを受けて、リマ・グループは直ぐにベネズエラへの軍事介入を否定する声明を発表するという出来事が同月あった。

マドゥロ大統領(UN Geneva/flickr:編集部)

OASは南北アメリカとカリブ海35か国から構成され、米国が主導して1951年に創設された組織である。一方の、リマ・グループはベネズエラのマドゥロ大統領が自らの政権の永続を狙って新しい憲法を制定するための制憲議会が設立したことを受けて、それは民主主義を冒涜するものだとしてペルーの政府の提唱によって12か国(アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、チリ、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ、パラグアイ、ペルー、セントルシア)によって創設されたグループである。

ところが、リマ・グループによるベネズエラへの軍事介入を否定する声明に唯一署名しなかった国がある。ベネズエラと2200キロの国境を分かつコロンビアである。署名しなかった理由をカルロス・オルメス・トゥルヒーリョ外相は声明の詳細に全面一致できなかったからだとし、如何なる場合も暴力の行使を否定し、この原則に基づいて継続して圧力をかけて行くとした。

一方、ベネズエラ制憲議会のフーリオ・チャベス議員は、タチラ州の保護者フレディー・ベルナルが国境近くにコロンビア軍が集結していることを制憲議会の委員会を通して明らかにしたことを重要視して、「コロンビア政府がベネズエラに対して秘密裡に軍事作戦を進めている」と語った。それがベネズエラに侵攻するためのものか否かについては同氏もまだ不明だとした。

同氏が指摘しているコロンビア軍の集結というのは「Unitas-2018」と名付けられた軍事演習のことで、コロンビア軍の18、28、30の3つの旅団に加えエクアドル、ブラジル、ガイアナの3か国の軍隊が米国の南コマンドの指揮のもとに進めらた軍事演習のことであった。

フーリオ・チャベス議員は、この演習がベネズエラに侵攻するための予行演習だと見做しているようである。しかし、同氏の指摘は全て正しいとは言えない。特に、この軍事演習に参加しているエクアドル軍のエボ・モラレス政権はベネズエラのチャベス前大統領の時から両国は親密な関係にあるからである。

この動きを警戒したマドゥロはコロンビアとの国境近くに自国軍を派遣した。

両国の軍事力は互角、世界ランキングでコロンビア45位、ベネズエラ46位となっている。コロンビアが主に米国の兵器の装備に対し、ベネズエラは中国とロシアの兵器が配備されている。また、兵員の数ではコロンビアは50万人に対しベネズエラは15万人に満たない上に、マドゥロの独裁政治に軍内部でも反対派がこれまで何度も反乱そしてクーデターに繋がるような動きを見せている。また、食料難などで外国に脱出している軍人もいる。

コロンビアはこの2-3年、ベネズエラから流入して来た移民が既に100万人を越えたとされており、それによってもたらさせる経済的インパクトは15億2600万ドル(1680億円)に及んでいるとされ、それはコロンビアGDPの0.5%に相当するという。

この損出をコロンビアが今後も負担して行くわけにも行かない。米国などからも資金的支援があるが、多量のベネズエラからの移民でコロンビア社会に及ぼしている被害は甚大。それにできるだけ平和的に早く終止符を打とうとしても、これまでも両国の不仲から事態は容易ではない。

メキシコの外相を歴任し、現在ニューヨーク大学に籍を置いているホルヘ・カスタニェダがニューヨークタイムズ紙に寄稿した内容が9月26日付で掲載されているが、その中で同氏は、ベネズエラのマドゥロ政権は民主政治が中断され、食料や医薬品などが不足して最低限の生活が保障されなくなっている。

そして、現在まで230万人が国外に脱出し、このままだと2020年までにさらに200万人の脱出が予想されている。もはや、ベネズエラの問題はラテンアメリカ全域の問題になっている、と指摘している。その解決には、軍事介入が正当化されるであろうかという疑問を投げかけている。また、外国からだと、唯一キューバが民主政治と地域の安全の為にベネズエラに影響力を行使できるが、それを誰も敢えて使おうとしないとも述べている。

キューバはラウル・カストロが退任しており、しかも米国との関係をこれ以上悪化させたくないと望んでいるようであるが、同時にロシアとの関係維持も必要だと見ている。その上、ベネズエラから今も石油の供給を受けている。だから、キューバは中立を保つ以外に選択肢はないのである。

同氏は、ラテンアメリカの後ろ盾を使ってベネズエラ国内でクーデターの遂行を公に或いは内密に支持するのはいつであろうか?と疑問視して、クーデターを肯定している。

現状の流れから見て、軍事介入への支持が次第に高まっているのは確かである。米国においても、ラテンアメリカの外交に影響力を持っているマルコ・ルビオ上院議員も最近は軍事介入を支持する姿勢を示している。

昨年まで米安全保障議会において南米担当だったフェルナンド・カッツ補佐官も多国間の軍隊による軍事介入が最良の解決になるだろうと9月24日、ワシントンのウイルソンセンターにて表明した。

しかし、米国内においても軍事介入に強く反対している人たちもいる。軍事介入をしても、それで移民問題など色々な問題が解決するわけではないと指摘しているのはワシントンの戦略国際問題研究所の教授アンソニー・カーデスマンである。

一番の問題は多国間の軍事介入だと、その歩調を合わせるのは容易ではないということだ。米国だけの単独の軍事介入は全く不可能である。少なくとも、隣国のコロンビアの協力が必要である。

しかし、トランプ大統領は自らの再選を狙って、ベネズエラへの軍事介入によって民主政治を復活させることは彼の大統領として可成り高いレベルで支持を集めることになることから軍事介入には強い関心をもっているという。

9月29日も記者団を前に、トランプ大統領は「ベネズエラは惨憺たるものだ。クリーンにせねばならない。マドゥロは私と会談を持ちたいと言っているが、まあ様子を見てみよう」と述べて、軍事介入も仄めかした発言になっている。

一方のベネズエラは、米国がやる事に常に反対を表明するトルコが味方につくようになっている。エルドアン大統領が「ニコラス・マドゥロをひとりにはさせない。ベネズエラへの訪問を検討している」とつい最近発言した。

参考:LaPatilla.com、NYTimes(Spanish)、Hispantv.comなど各国スペイン語メディア。