防衛産業終わりの始まり 失われた四半世紀と当事者意識なき惰性

国内防衛産業の再編促す 防衛大綱・中期防に明記(毎日新聞)

政府は、年末までに決定する10年先を見すえた日本の安全保障政策の基本方針となる「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と、今後5年間に自衛隊がそろえる装備品や費用を示す中期防衛力整備計画(中期防)に、国内防衛産業の再編・統合を促す方針を初めて明記する。企業の枠を超えた防衛事業部門の統合や連携による「規模拡大」で、技術開発力や国際競争力の強化につなげる狙いだ。

厳しい財政状況も後押しした。19年度防衛予算の概算要求額は、過去最高の5兆2986億円で、今年度予算比2.1%増えたが、財務省は防衛関連予算の効率化を求めている。防衛省は国内の装備品をより安く、安定的に調達するためにも国内業界の再編・統合が欠かせないと判断した。

再編・統合の必要性については14年に策定された防衛省の「防衛生産・技術基盤戦略」が「検討していく必要がある」と言及したことがある。今回は「防衛大綱」や「中期防」に書き込むことで「政府の防衛政策の一環」との位置付けを明確にする。

ぼくは日本の防衛産業の統廃合は四半世紀前から訴えてきました。そして年頭にこのブログで今年は防衛産業終わりの始まりの年になりそうだと書きました。それが現実化してきました。

先延ばしをするほど後で痛い目をみると警告してきましたが、諸外国では合従連衡が進みましたが我が国はどこ吹く風でした。そして防衛産業の売上は徐々に下がり、のっぴきならない状態に陥っています。バブル以降失われた20年といいますが、防衛産業も同じで、失われた25年といっていいでしょう。

防衛装備庁サイトより:編集部

因みにぼくが東京財団の政策提言として「国営防衛装備調達株式会社を設立せよ」を発表したのがもう13年前です。

その間防衛装備庁はできましたが、仏作って魂れずで、首相官邸、NSC、経産省、防衛省、産業界も当事者意識と能力が欠如していました。

率直に申し上げれば、一番悪いのは政治です。政治が関心がなく、我が国の防衛産業の実態を直視せずにきたの最大の原因です。自民党の国防部会ですら未だに「戦闘機を作れた」「たちまち世界最先端の戦闘機が」なんて寝言をいっている有様です。率直に申し上げて絶対平和主義のお花畑の活動家とベクトルが違うだけで、同じレベルです。

当の防衛産業のメーカー各社も同様です。大企業では防衛産業の比率が小さいこともあり、経営者が自分の代で泥をかぶることを良しとせず、問題先送りにしてきました。これは名経営者と謳われたコマツの坂根元会長も、無能で知られる東芝でも同じことです。

これは非常に恥すべきです。やる気もなく、将来に対するR&Dにも投資せずに、漫然とできの悪い装備を高値で売りつけるのは、自社のリソースの無駄使いであり、株主にたいするだけではなく、納税者に対する背任であるとすらいえるでしょう。そもそも自社のウェブサイトに防衛やっていますとうたえないような「恥ずかしい商売」だと思っているならば潔く撤退すべきです。

また官側も既存の防衛産業の利権を守るのではなく、新しい企業、特に中小企業を防衛産業に入れることで、新陳代謝を図るべきです。

例えばUGVやUAVは日立やスバルなど既存の防衛産業に任せた結果、カネだけはかかりまともなものはできていません。こういう新しいことは専業メーカーやベンチャーに任せるべきです。

それは官の側に問題があります。既存のメーカー振っておけば失敗しても自分は責任を追わずにすみます。また新しい装備必要性と、それを導入した場合のレガシーの装備を削減したりすることに抵抗が起こるので、それから逃げてきたからです。更に申せば新しい装備の必要性を理解していない。

一例を挙げれば爆弾処理などのEODでは、途上国ですらUGVを導入していますが自衛隊では未だに人間がリスクを犯しています。

先の装備庁のシンポジウムでは装備のNATOカタログ化を進めることが報告されました。これが進めば、単に装備や部品を登録するだけではなく必然的に試験や、規格もNATOの基準を採用することになり、外国製品との競合が始まります。

それからぼくは前から防衛産業の再編は血と涙が必要だといいました。撤退する企業もでてくるし、抽象下請けでは防衛依存度の高い企業も少なくないですが、単にしがみついてきた企業は倒産、会社整理、合併などが不可避でおこるでしょう。ですが涙と血を流さない限り、またその恨み辛みを受ける覚悟がない限り産業再編はできません。

ここいらで政官民ともに腹を据えないと、最悪の結果を生むと思います。先のない防衛産業の延々と税金をつぎ込みできの悪い、諸外国の何倍も高い装備を買い続けて血税をドブにすてたあげく、メーカーが事業維持をできなくなってバンザイし撤退。蓄積した技術は霧散することになるでしょう。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。