きのう日産のゴーン会長が逮捕された容疑は「役員報酬の虚偽記載」という金融商品取引法違反だったので報道が混乱したが、これは本筋ではない。
まだ全容は不明だが、今のところわかった情報を整理しておくと、事件の概要は次のようなものだ:
- 金商法違反は検察が身柄を拘束する「入口」の容疑だと思われる。ゴーンの役員報酬は源泉徴収されるので、虚偽記載しても脱税できない。記載の主体は法人としての日産自動車なので、会長個人を逮捕することは通常ありえない。
- 役員報酬は取締役会で承認されるので、それが虚偽だとすれば、責任はすべての取締役が負う。きのうの社長会見で虚偽記載の事実は認めたが、本件は司法取引でゴーン以外の取締役は免責されたと思われる。
- 本筋の容疑は特別背任と業務上横領だろう。日経新聞によると、ゴーンは「ベンチャー投資」の海外子会社をつくり、自宅用の高級住宅を購入させたという。この子会社の資本金が60億円で、支出が20億円。検察はこれを簿外の役員報酬としたのだろう。
- 虚偽記載の一つの理由は、役員報酬を小さく見せることだったと思われる。ゴーンの報酬は5年間で49億8700万円だが、世界的にみると年間100億円を超える役員報酬は珍しくない。検察の発表した「5年間の役員報酬99億9800万円」は、簿外の報酬を合算した額と思われる。
- ゴーンは自分の貢献に対して年間10億円は少ないと考え、役員も「隠れ役員報酬」を黙認していた可能性がある。日産ほどの大企業で、会長が会社に隠れて役員報酬を50億円も出せるはずがない。今回逮捕されたグレッグ・ケリーなどの「共犯者」が、社内にいたはずだ。監査法人は何をしていたのか。
- 事件の背景には、日産の社内で高額の役員報酬を取るゴーンに対する不満のマグマがたまっていたという社内政治や、フランス政府を巻き込んだ複雑な「社外政治」もあるようだ。
社内政治や社外政治についてはくわしい人のアゴラへの投稿を待ちたいが、少なくとも金商法違反が本筋でないことは明らかだ。特別背任は「故意に会社に損害を与えた」という立証が困難なので、検察は立件の容易な虚偽記載から入ったと思われる。金商法違反は起訴できるだろうが、それで終わる事件ではない。
きのうの逮捕から記者会見まで、検察と経営陣の連携したすばやい動きをみると、今回の事件は入念に計画されたゴーン追放劇の序幕と見るべきだろう。単なる不満分子のクーデタではなく、事件の背景にはグローバルな自動車産業の再編や、資本主義の生み出す「格差社会」への不満など、根深い問題もありそうだ。
最初の焦点は、22日の取締役会で解任決議が可決できるかどうかだ。専門家の見通しでは、9人の取締役のうちゴーン派が(彼とケリーを入れて)5人だったので、2人が逮捕されると4対3で解任は可決できる見通しだというが、今後も多くの山場があるだろう。