今週のメルマガ前半部の紹介です。
第4次安倍内閣のサイバーセキュリティー担当大臣に就任した桜田先生が「PC使ってない」と国会質疑で回答し、世界から驚きをもって受け止められているようです。
「パソコンすら使わない男をどうしてセキュリティ担当のトップに起用するんだ」という疑問は、ある意味当然のものでしょう。
そもそも桜田センセイのご経歴も泣かせます。高校卒業して大工として働きながら明治大学の2部に通い、土建業で起業して市議会、県議会を務めあげて国政にという、ある意味こてこての自民党議員の王道を歩んできた方です。
たたき上げの立派なおじさんですが人生のどのステージにおいてもセキュリティとかすった痕跡すら見受けられません。
なぜ安倍さんはそんな桜田センセイをよりによってサイバーセキュリティ担当相なんかに登用したんでしょうか。
我が国の偉い人は何かあった時に腹を切るのが仕事だから
実はこの問題は人事制度のギャップから生じるものです。
諸外国の人事制度は個々人の職務内容が明確であり、処遇もそれに紐づいています。今話題のカルロス・ゴーンさんは大学卒業後に入社したミシュラン社で最初に携わった仕事は工場長ポストでしたが、別にゴーンさんが偉かったわけではなくて「工場長という仕事」をしていただけの話です。
一方のわが国では、個々人の担当する職務内容は曖昧であり、勤続年数に応じて上位職に昇格し、処遇も序列に比例するという特徴があります。だから工場長や事業部長といった上級管理職はたいてい50代のオジサンで固められており、その人たちが実際に手掛ける事業の最先端のことを知っているかというと、実際には全然知らないなんてことは珍しくないです。
はっきり言えば桜田センセイみたいな偉い人はどこの大企業にも普通にいますね。そういえばちょっと前に「経団連会長が初めて執務室にパソコンを導入した」というニュースも話題となりましたね(さすがに日立出身の中西会長はPCくらい普通に使えると筆者は思いますが……)。
桜田センセイは当選7回のベテランですからそろそろ入閣させてやろうというのが抜擢の事情でしょう。
面白いのはこの現象は企業組織だけではなく日本社会全般に見られる点です。たとえばプロ野球なんてついこの間まで選手やってた鉄人金本とか高橋由伸にいきなり監督任せちゃうわけです。
「采配の素質があるから」じゃなく「名選手で球団を盛り上げてくれた功労者なんだから監督にしてやらないと」というわけです。まんま企業の年功序列と同じですね。
日本型組織で素人にトップが務まるワケ
では、実務に明るくないトップを抱えて、なぜ日本型組織は仕事を上手く回せているのでしょうか。答えは現場力にあります。
日本型組織というのは現場から徐々に上に向かって仕事を組み上げていく性質があります。いわゆる“すり合わせ”というやつです。たとえば現場があれこれ動いて課長に報告を上げ、そこで揉んだ後で今度は部長に上げてモミモミしてから事業部長に上げる、という具合です。
桜田センセイで言えば担当省庁の優秀な官僚組織が動いて現場レベルから報告書を上げ、大臣の手元に上がる頃にはもう完ぺきに仕上がっていてあとはハンコを押すだけという状態ですね。大臣の仕事は、何か手違いがあった際に責任取って腹を切る(=辞任する)ことだけです。
こういう方法には確かになかなか思い切った改革が進まない、責任の所在が曖昧といったデメリットもあります。でも、大きく外すことがなくパフォーマンスが安定しているというメリットもあります。
そういえば民主党政権の時に「(東工大理学部応用物理学科卒の)俺は原子力に詳しいんだ!」と言って現場にトップダウンで介入したり超法規的に全国の原発を停止させて年間数兆円のエネルギーコスト増を我が国に今ももたらしている総理がいましたね。中途半端に「わかっている人」を連れてきた結果がアレなわけです。
筆者自身は年功序列的な人事というのはけしてほめられたものじゃないと考えていますけど、国としてそういう慣行が行き渡っている以上、“元ハッカー”みたいなとんがった人材をセキュリティー担当相にすえても状況は何も変わらない気がします。むしろ菅直人でやらかした前科のある故・民主党OBが「やーい、この素人大臣め!」って言うのは非常に滑稽だなというのが正直な感想ですね。
以降、
これからのキャリアは発想の転換が必要
今後求められる仕事の取り組み方
Q:「希望退職の募集はかえって優秀層に逃げ出されるだけでは?」
→A:「優秀層が流出しても構わないという事情があるはずです」
Q:「これからの人事部の役割とは?」
→A:「基本的には2極化すると考えていますが……」
雇用ニュースの深層
商社もようやく重い腰を上げるようです
商社は年功序列が機能する数少ない業種でしたが、いよいよ人事制度の見直しに着手するようです。
出世を諦めると、人は無理をしなくなる
出世も天下りも諦めて定年までしがみつく官僚が増えると、素人に大臣が務まらなくなってしまいます。
TPP芸人の生存確認!
「TPPで開国したら競争で全部負ける」って煽ってた人が「現状のままならITで負け組になる、古い国産システムを一新しろ」と変革を叫ぶ雄姿を見て、信者の皆さんも現実にたちかえりましょう。
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年11月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。