財務や税務に無知な経営者
日産自動車を深刻な経営危機から救ったカルロス・ゴーンについて、連日、報酬の虚偽記載や会社資金の不正使用などの犯罪的行為が報道されています。いつばれてもおかしくない初歩的な手法が多く、拍子抜けです。本当の辣腕経営者なら、もっと巧妙な手を使うはずなのに、どうしたことでしょう。
名声が確立すると、それが神話化され、周囲は神話の主に疑いを抱かなくなる。よくある話です。それがまた、起きた。人事権を握られた側はいいなりになり、沈黙を守る。これもよくあることです。それがルノー・日産・三菱自という強力な3社連合で起きるとは。「まさか、まさか」 が多発する時代です。
ゴーンにはコストカッターの異名があり、1兆円ものコスト削減、人員削減、不採算工場の閉鎖で、「日産サバイバル・プラン」の名の通り、短期間で日産の経営を立て直しました。タイヤメーカーのミシュランからルノーにヘッドハントされ、ルノーから日産に送りこまれたのも、経営合理化の辣腕ぶりを評価されてのことと言われます。
疑うことを止めるとこうなる
異能だったのは、コストカットやリストラなどの面に限られ、製品開発、経理、財務、税務など、経営全体をみる経験、知識が欠けていたとしか思えません。オールラウンドの経営者ではなかった。コストカットで瞬く間に、日産を再建した印象が強烈だったので、優れた経営者と周囲が思いこんだ。
報道される容疑は、有価証券報告書の虚偽記載、会社法の特別背任、刑法の業務上横領、脱税など、疑惑のオンパレードです。経理、財務、税務にいかに無知であったか分かります。一緒に逮捕された側近のケリー代表取締役(米)が指示を受けて、不正に加担していました。この人物もゴーン同様、無知だったか。弁護士や公認会計士に相談すれば、反対されるだろうからと、素人の浅知恵で突っ走ったか。
「退任後に報酬後払い、8年で計80億円、覚書を作成」というのが25日の朝刊に載っていました。世間から批判を浴びないように、年間20億円の報酬のところを10億円分だけ有価証券報告書に記載し、残りの10億円は退任後に受け取る。8年分で計80億円。退任した後に後任者がチェックすれば、機関決定していない覚書の存在が発覚する。発覚すると、支払いに待ったがかかる。なぜそんなことをしたかですね。
社内手続き怠り暴走
退職後に支払うのなら、そのために、毎年、その費用を積み立てておく必要がある。それもしていません。通常なら、退職功労金などの名目で、事前計上しておくところでしょう。不正を働くにしても、こうした初歩的な手続きさえしていない。不正だから、もちろん社内決裁も経ていない。
それに加え、ゴーンは病的なケチであったとしか思えません。海外に日産の子会社を設立し、欧州、ブラジル、レバノンを含めた4か国に会社負担で自宅用として住宅を取得させていました。改装費、家具購入、不動産の取得に伴う税金は会社の経費で賄いました。年10、20億円もの報酬をもらいながら、家族の旅行、飲食費にも数千万円、使ったといいますから、信じがたい。守銭奴でしょう。
「ゴーンを追い出すクーデター」という解説がありました。捜査機関の手にかかって、数々の不正がばれ、逮捕、解任されたのですから、「クーデター」以前のレベルの話です。「日本側の陰謀」説もありました。「陰謀」どころか、ゴーン側の一方的な犯罪です。「クーデター」や「陰謀」があって、不正が暴露されたのではない。不正行為が先行し、隠しきれず、ゴーン解任というタイミングを迎えていたのでしょう。
ゴーンに権限が集中し過ぎたと批判されています。そうなのでしょう。フランス側は何をしていたのでしょうか。ゴーンがルノーの会長も兼務していたから、発覚しなかったのでしょうか。仏政府はルノーに15%出資している大株主です。ゴーンをもっと監視すべきでした。仏政府は日産にルノーからゴーンの後任を出したいそうです。やるべきことは権限の集中ではなく、分散でしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。