史上初、東京都23区は過去最大の給与引き下げ勧告を無視したという報道がなされた(特別区人事委員会による勧告内容はこちら)。
月例給を9,671円(2.46%)の引き下げ、特別給を0.1ヶ月引き下げる内容である。過去に人事委員会の勧告を実施しなかった例は、1982年の4.58%のプラス勧告に対し、財政難を理由に実施しなかった例がある。
公務員には団体交渉権などの労働基本権が認められていないため、国家公務員には人事院、地方公務員には人事委員会による勧告制度によって、給与や待遇を決めることになっている。このため、給与プラス勧告の時は、役所側は人事委員会を盾にし、制度に従うべきだという姿勢をアピールする。
一方で、今回のような過去最大のマイナス勧告に対しては、「自主的な解決を図る」という姿勢は、全くもって矛盾しており、都合の良いように人事委員会勧告を使っているとしか受け止められず、住民感情として納得できるものではない。
この、公民給与比較自体についても、「職種別民間給与実態調査の結果が、地域の民間給与水準を十分に反映していないのではないか」ということで、検討会が行なわれており、サンプル数やサンプル種別の公平性、統計の精度などには議論があるところだ。
しかし、そもそも論で、公務員は身分保障という強力な保障制度があるので、民間企業との横比較にそぐわない。一昔前と違い、終身雇用制度が崩壊した現代において、よほどの事件でも起こさない限り定年まで安定して働けるという環境は、それ自体に大きな価値がある。ゆえに、民間企業と給与のみを比較するのは公平性に欠ける。
また、ICTが普及し、グローバル化も進み、昭和の時代とは働き方も職種も大きく変わった今、公務員の仕事と民間の仕事を比較することは非常に困難である。市場と乖離した、利益性のない行政という特別な環境で、公務員という身分保障があるからこそ、行政は生産性が向上しにくい。それぞれの自治体が切磋琢磨し、行財政を向上させるためにも、公民給与比較の計算のみで一律に民間との均衡を保つのではなく、身分安定性と財政状況も考慮すべきだろう。
都合よく使われてしまう人事委員会勧告の意義と共に、公民給与比較制度のありかた自体も改めて考える時期ではないか。
山本ひろこ 目黒区議会議員(日本維新の会)
1976年生まれ、広島出身、埼玉大学卒業、東洋大学公民連携学修士、東京工業大学イノベーション科学博士課程後期。
外資金融企業でITエンジニアとして勤務しながら、3人娘のために4年連続で保活をするうちに、行政のありかたに疑問を抱く。その後の勉強会で小さな政府理論に目覚め、政治の世界へ。2015年、目黒区議選に初当選。PPP(公民連携)研究所、情報通信学会、テレワーク学会に所属。健康管理士。