プーチンの無茶ぶり
9月に露ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」での、プーチンによる唐突な無条件での日露平和条約締結のオファーに対し、安倍総理は流石に「無条件」は避けるものの、前のめりの姿勢で臨んでいる。
当然ながら日本の報道と世論は、果たして北方領土が何島返ってくるのかに焦点が当たっている。日本としては4島一括返還が予てからの国是ではあるが、歯舞・色丹の2島返還に加え、国後・択捉の2島について平和条約締結後の継続協議に持ち込むのが現実問題としてのリミットではないかとも言われている。
さて返還の一番のネックとなるのが、返還された島に米軍施設が設置されるか否かであると言われている。2島の場合、北海道本島に施設を設置するのと軍事的に実質的な差異はないが、プーチンとしてはロシア国民に対する面子を保つためにも絶対に譲れない線であろう。このため、それについての日米露間での同意なしでは、2島も返ってくる事はない。
しかし、全てが上手く運んで2島+アルファとなったとしても、ましてや2島以下で打ち切りになった場合には特に、国是であった4島一括返還から遠く離れると言うことになる。その上プーチンからの請求書にどの位の額が書き込まれるかも不明だ。
国運を掛けて
それゆえ筆者は、敢えてこの時期に日露平和条約を結ぶのは、実質的な「日米露三国同盟」への布石でなければ意味がないと考える。それ無くば、コストとリスクを負ってここでカードを切る事は4島一括返還でもない限り無駄と言えるだろう。
即ちプーチンは中国との「不信同盟」を捨てて、トランプは米国内の反対勢力を抑え、日本を触媒として、将来の実質的な三国同盟(少なくとも協商)関係への方向性を打ち出せるかをもって、今回の日露平和条約の是非が諮られるべきである。
第一の軍事大国の米国が、第三の軍事大国であるロシアと結び、第二の軍事大国である中国を抑える。それに重ねて、第一の経済大国である米国が、第三の経済大国である日本と結び、第二の経済大国である中国を抑える。古来、勃興する挑戦者に対する勝利の方程式は自明である。
今の中国は、その人権、領土、経済に対する無法ぶりと影響力を考えれば、嘗てのナチスドイツに匹敵し、習近平は巨大市場を抱えた現代のヒトラーである。いわば大悪魔である習近平に対するには、現在の覇権国の主トランプが中悪魔であるプーチンと組むべきなのが、国際秩序の現実的正義である。またそうでなければ、恐らく日本の安全保障も保つ事は出来ないであろう。
奇しくも冒頭の「東方経済フォーラム」でのプーチンによる唐突な、無条件での日露平和条約締結のオファーは、座席の配置から安倍総理に対し習近平を挟む形で行われた。プーチンとしては、「三国同盟」は恐らく視野に入っているだろう。しかし、日本が乗って来なければ中国からの侵略リスクを抱えつつ「中露不信同盟」を続けざるを得ず、それをバックに習近平は南沙諸島掠奪等々を始めとした覇権拡大を背後の守りの憂い無く続ける事になるだろう。
トランプはというと、ペンス演説によって国家第一の敵は中国であるという認識が米国民にも芽生えつつあると言え、身動きが縛られるロシア・ゲートの行方は流動的だ。
日本は、刻々と動く国際情勢とその行く末を見極め、更に自ら情勢を作り出しながら、国際的大義と国運を掛けて日露平和条約交渉に臨まなければならない。(一部敬称略)
佐藤 鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
HP:佐藤総研
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