メルケル独首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の党大会が今月7日、独北部ハンブルクで開催される。党大会では、メルケル首相が10月29日党首辞任の意向を表明したことを受け、次期党首が選出される。
党首選には3人の候補者が出ている。これまでの世論調査で常に先頭を走っているアンネグレート・クランプ=カレンバウアー党幹事長(56)、それを追って元議会院内総務から政界を離れ実業界で歩んできたフリードリヒ・メルツ氏(62)、そして第4次メルケル政権の保健相を務めるイェンス・シュパ―ン議員(38)が出馬している。
党首選は1001人の代表党員の投票で決めるが、当選するためには過半数を獲得しなければならない。第1回の投票で過半数を獲得した候補者がいない場合、上位2人による決選投票となる。
CDUは党首選のためドイツ全土で8回、地域主催の党会合を開催し、そこで候補者は、持ち時間10分で自身の政治信条、公約などを党員の前に表明し、討論する。
第4次メルケル連立政権のパートナー、社会民主党(SPD)の場合、党首の選出は党幹部会が統一候補者を決め、党大会で正式にそれを承認するというプロセスを取ったが、CDUの場合、ドイツ全土の党員の前に候補者が自身の信条を表明できることから、「これまで見られなかったほど党員の中に活気と連帯感が出てきた」という声すら聞こえる。
3人の候補者の簡単なプロフィールを紹介する。サールラント州の州首相だったアンネグレート・クランプ=カレンバウアー女史は今年、メルケル首相の強い要請を受けて党幹事長に抜擢された。州首相が党幹事長に就任するというのは異例の人事だ。党員の中にも驚きの声が聞かれた。メルケル首相は党内でくすぶり続けてきた後継者問題を鎮静化するため、クランプ=カレンバウアー女史を自分の後継者に担ぎ出したものと受け取られた。
メルケル首相の後継者と受け取られることは、本人にとってプラスとマイナスがある。なぜならば、CDU党員の中には18年間のメルケル党首時代から脱皮し、新しいスタートを願う声が強いだけに、メルケル首相が選んだ人物を再び党首に担ぎ出すことに抵抗があるからだ。そういうこともあって、クランプ=カレンバウアー幹事長はここにきてSPDとの大連立政権に批判的なコメントを発するなど、メルケル色を脱し、独自色を出す努力をしてきているわけだ。
第2候補者のメルツ氏は2000年から02年まで連邦議会のCDU院内総務を務めた。02年、メルケル首相との党内争いで敗北。09年に政界から引退し、弁護士業に戻った。メルケル首相の党首辞意表明を受け、政界復帰を決意したわけだ。経済分野ではリベラルだが、他の分野では保守的。年齢的にまだ十分若いが、同氏の政界復帰はCDUの刷新、再出発といったイメージには合わない面も否定できない。独メディアでは、メルツ氏が経済界で高額所得を得ていたといったニュースを大きく報道している。
第3候補者のシュパーン保健相は党内では若手の保守派とみられ、CDU青年部ではシュパーン議員支持の声が出ている。同議員はメルケル首相の難民歓迎政策に対しては批判的なスタンスをとってきた。若く、野心的で演説がうまい。メルケル政権下で失われてきたCDUの保守主義への回帰を目指す。CDUの刷新というイメージでは上記の2人よりマッチしているが、38歳とまだ若いこともあって今回は難しいだろうという意見が支配的だ。
いずれにしても、シュパーン氏が第1回投票で3位となった場合、決選投票では同氏の支持票が党首選出の決定的な影響を与えることになるだけに、同氏には、党首選出メーカーとして党内の影響力を拡大する機会ともなる。
3人の候補者の誰が新党首に選出されたとしても、低迷するCDUを復活させる任務は重い。移民問題でも党内では意見が分かれているうえ、連立パートナーの社民党との関係もある。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の動向も無視できない。
メルケル首相は党首を辞めた後も2021年まで首相任期を全うすると表明済みだが、同首相がその時まで首相ポストに就いていると考える党員は多くない。新党首はメルケル首相がいつ首相職を辞任したとしても、ドイツのかじ取りができる心構えを準備しておかなければならないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。